11 時雨

「ときさめ?」

「外れだ」

 容赦ない同級生の言葉に、ちぇっと舌を打つ。

「はるさめ、あきさめと来たら、ときさめじゃないのかよー」

「その理屈だと、梅雨は『うめさめ』にならないか」

 プリントを前にうんうん唸る羽目になっているのは、漢字のテスト勉強ではなくて季語の復習だったりする。

「しぐれ、と読むんだ」

 難なく正解を口にした同級生は、不意に口元を歪めると、改まった口調で続けた。

「――知ってるか菊池。実は某人気少年漫画に、それぞれ季語を名前に持つ敵方の四天王がいてだな。繰り出す技名もきちんと五七五になってるんだ」

「えっまじ、なにそれカッコイイ……って、またオレを引っかける気だろー! もう、その手には乗らないんだからな!」



『四天王が一、この時雨サマの攻撃を受けてみよ! 必殺! 『暗闇に魂穿つ小夜時雨ダークネス・デス・レイン』!』


「本当にあった」

「全三十五巻だ。貸そうか」

「うん」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る