Aさん
Aさん
唐突に途切れたメールは行方知れず
私は中断した日常に舞い戻る
心はまだあなたに向かい彷徨う
Aさん
もう最後に会ったのはいつか思い出せない
背負う重荷を打ち明けられた時には
既にあなたの力は尽きていて
会うことも話すこともできなくなっていた
Aさん
最近のメールで
あなたに新たな重荷が加わったと知った
あなたは汗にまみれ、血を流し
怒号を放ち慟哭しながら
それでもその重荷を背負うのだろう
あなたの足跡は一段と深く刻まれてゆく
Aさん
もはやあなたは何も望まない
それを知っているのに私はまだ
あなたが安んずる道を探してしまう
そんなものはどこにも無い
あなたはもう、この道を歩むと決めたのだから
Aさん
いつか会えたなら
あなたはまた痩せてしまってるんだろう
乾いた瞳はもう彩りを映さず
糾弾に耐え兼ねた耳は既に閉ざされている
それでも、あなたに伝えられるだろうか
あなたがとうに失ったと思っていても
あなたの奥底に秘めたものがある
あなたがとうに諦めているとしても
あなたの中で死なず力を放つ
疲れ果てたあなたに、合わせ鏡のように
もうひとつの姿が宿る
あなたの嘆きが
芽吹き
あなたが歯を食い縛るとき
それは天に向かって伸びる
あなたが堪えた涙が
悲哀を湛えて膨らみ
あなたの絶望は
祈りとなって
透き通るような白い花弁が
汚泥の中で密やかに開いてゆく
Aさん
私にできることは他に何ひとつ無い
私はただ、息を詰めて見つめている
もはや何も残らないとしても
あなたの生きた軌跡は残る
あなたの魂を
その輝きを
***
Aさん
お互い、ごめんは言いたくないんだ
これ以上あなたに重荷を負わせたくはないし
あなたを重荷にしたくもない
私はただ
いつか
いつか
あなたに
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