第14話

「どうすればいい」

「御任せ下さい」

「そうか。

 手があるのだな」

「はい」


 王太子殿下が狂気の命令を下して直ぐに、サライダ公爵家城代はその命令を掴んでいた。

 常在戦場の城代は、王太子殿下とメイヤー公爵の言動を直ぐに知るべく、手の者を送り込んでいたのだ。

 まあ今回の場合は、愚かな両者が機密保持を行わなかったので、情報が駄々洩れだったのだが。


 城代は直ぐに対抗策を打った。

 即座に行ったのが、シャーロットに対するカウンター攻撃だ。

 国民の誰もが心の底で思っている、シャーロットが王太子殿下の婚約者になったから、水の精霊様の怒りを買ったという噂を流したのだ。


 同時に、王太子殿下とメイヤー公爵が地下用水路に毒を流したから、水の精霊様を激怒させたと言う噂だった。

 民の心理に沿った噂は、王太子殿下とメイヤー公爵が名目にしている言い分が、嘘であると強く民の心の中に染み渡った。


 むりやり死ぬかもしれない戦いに動員される、王太子殿下とメイヤー公爵の領民は、その噂に絶望した。

 戦って手柄を立てたとしても、ケチで身分差別をする主人の元では、絶対に報われないのが分かっていた。


 しかも、手柄を立てるという事は、水の精霊様の怒りを買う事になる。

 そんな事になれば、オアシスの水位が下がるどころか、完全に水が涸れてしまうかもしれないのだ。


 それに彼らは知っていたのだ。

 先祖代々、言い伝えられてきた禁忌。

 オアシスと地下用水路は、騎士や聖職者しか入ってはならない事。

 それを王太子殿下が破ったという事実。

 雑兵に騎士の服装をさせて、地下用水路を掘らせた事。


 自らの行動に恐怖していた雑兵達は、王家の憲兵隊に逃げ込んで、王太子殿下の凶行を証言した。

 証言を受けた憲兵隊は心底困惑した。

 次の王となる王太子殿下に罪を問う事など出来ない。

 だが、逃げ込んだ雑兵の口を封じるのも怖かった。


 自分達だけで判断し、責任を取らされる事を恐れた憲兵隊は、宰相府に全てを通報して、丸投げした。

 だが、宰相府も困惑した。

 臆病風に吹かれたと言ってもいい。

 憲兵隊と同じだった。


 誰だって自分の身は可愛い。

 まして愛する家族がいる者は、臆病になって当然だ。

 保身に走る事をなじる事など出来ない。

 それは、他の二大公爵家を始めとした、貴族達も同じだった。


 そこで、王国も貴族も時間稼ぎをした。

 何かと理由をつけて、兵の動員を遅らせた。

 実際問題、王国軍も貴族の私兵も、なかなか集まらなかった。

 それは当然だろう。

 眼に見えてオアシスの水位が下がっているのだ。


 誰もが、水の精霊の怒りを買っているのを理解しているのだ。

 本当の原因が、王太子殿下とメイヤー公爵である事を理解しているのだ。

 それでも彼らに出来たのは、兵の動員の遅延させる事だけだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る