第15話

「閣下。

 次の手を打ちたいのですが、宜しいでしょうか」

「まだ手があるのだな」

「はい。

 まだまだ手がございます」


「民を護るために、全力を尽くしてくれ」

「御任せください。

 閣下の御心に添えるように、身命を賭して務めさせていただきます」

「頼んだぞ」


「されどその為には、御嬢様の御協力が必要でございます」

「それは!

 カチュアの身を危険にさらす事か?!」

「大丈夫でございます。

 臣達が命懸けで御守りいたします」


 城代の提言に、サライダ公爵はしばらく悩み苦しんでいた。

 それはそうだろう。

 幼き頃から教育された、民を護るという公爵の務めと、最愛の娘を危険に晒すという本能的な嫌悪感が、心の中で戦うのだ。


 だがそれを、カチュア自身の言葉が撃ち破った。

 いや、カチュアの願いが、父であり公爵であるキャスバル・サライダに決断させたのだ。

 カチュアを城外の農園に行かせて、水乙女であると証明をする事を。

 王太子とメイヤー公爵に思い知らせることを。


 最初カチュアは、出来るだけ穏便に済ませようとした。

 内乱を未然に防ぐことが出来て、民が平穏に暮らせるのなら、公爵家が取り潰されてもいいと考えていた。

 だがその考えが甘い事を思い知らされた。


 父や城代が、今迄隠していた、王太子殿下の行状を伝えたのだ。

 サライダ公爵家の深窓の令嬢として、館や王宮の奥深くで育てられたカチュアは、噂話とは無縁だった。

 特に王太子殿下の悪い噂からは離されていた。


 王太子殿下の婚約者に決まったカチュアに、男を近づけることは出来ない。

 そこで歳の近い女の子を、戦士として侍女として徹底的に鍛え、戦闘侍女に育て上げた。

 豊かで平和なサライダ公爵領で育った彼女達も、王太子殿下の悪い噂をカチュアに聞かせはしなかった。

 カチュアに伝わったのは、舞踏会などでの僅かな噂だけだった。


 ただ、そんな王太子殿下に嫁がなければならないカチュア御嬢様の不幸を、心底嘆いていた。

 それが、婚約破棄を言い渡されたと聞いて、内心は飛び上がらんばかりに喜んだ。

 そして、今度はよき伴侶に恵まれて、カチュア御嬢様が幸せになれるように、心から願っていた。


 そんな彼女達は、カチュア御嬢様を絶対に護ると、心の中で誓っていた。

 それに加えて、サライダ公爵家の手練れの男性戦士が、新たにカチュア御嬢様の護りに加わった。

 地下用水路を使った襲撃を護りきったメンバーに加え、新たな戦士も加えられていた。


 そんな護衛達に護られたカチュア御嬢様は、サライダ公爵館の城壁外に広がる、広大な農園に立っていた。

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