第13話

「それわぁ、カチュアがぁ、不義密通したせいですぅ」

「なに!

 どういう事だ!」

「オアシスのぉ、水位がぁ、さがったことですぅ」


 側近を斬り殺した王太子は、いらいらした思いをぶつけようと、再び寝室に戻り、シャーロットを抱いて憂さを晴らそうとした。

 そんな王太子から巧みに話を聞き出したシャーロットは、事もあろうに、全ての原因をカチュアにかぶせようとしたのだ。


 少しでも頭の回る人間なら、その言い分が全く通じないことは理解出来る。

 そもそも、シャーロットを水乙女だという事にして、カチュアとの婚約を破棄したのだ。

 オアシスの水位が下がった事を、カチュアの責任になど出来ないはずなのだ。


 オアシスの水位が下がった事を、糾弾されるべき者がいるとすれば、水乙女を名乗って王太子殿下の婚約者の地位を奪った、シャーロットであるはずだ。

 次に糾弾されるべきは、シャーロットの言葉を真に受けて、カチュアとの婚約を解消した王太子だ。


 まかり間違って、身分ある貴族令嬢の不義密通が水乙女の怒りを買ったとしたら、それも全て王太子が原因だ。

 まだカチュアと婚約していた頃、王太子は権力と暴力を使って、多くの貴族令嬢に不義密通を強要していた。


 まあ、幾人かの貴族令嬢も、カチュアから王太子の婚約者の地位を奪うべく、積極的に応じてはいたが、そんな女は王太子の好みではなかった。

 シャーロットと出会うまでの王太子は、恋人や夫のいる女性や、身持ちの堅い乙女を、むりやり暴力で手籠めにするのが好きだったのだ。


 しかし、愚かで身勝手な王太子に、そのような常識は通じない。

 自分の間違いに思い至る知恵など持っていない。

 シャーロットに唆されるまま、カチュアの不義の所為でオアシスの水位が下がったからと言って、自分の私兵を動員した。


 王太子は嗜虐心が強いが、それは王太子という地位と権力に裏打ちされたもので、本来の性格は惰弱で臆病だ。

 だから自分の私兵だけでサライダ公爵家に攻撃をかけたりはしない。

 当然ながら、シャーロットの養家で、普段からすり寄ってきている、メイヤー公爵家にも動員を命じた。


 いや、メイヤー公爵家だけではなく、普段自分にすり寄ってくる多くの貴族家に動員を命じたのだ。

 それだけではなく、ゴライダ王国の国軍にまで、カチュアの不義密通が原因でオアシスの水位が下がったと言って、サライダ公爵家攻撃を命じたのだ。


 全く愚かな行動だった。

 自分の私兵だけで、風のように動いて奇襲を行えば、まだ、攻撃が成功する可能性はあった。

 まあ、王太子の私兵の練度では、風のように奇襲するのは絶対に無理だが。

 それを、動員に何日も時間をかけてしまったら、サライダ公爵家が防御態勢を整えてしまう。


 そんな状態で、王太子がカチュア討伐を命じてから三日後に、ようやく攻撃の体制が整った。

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