第5話
サライダ公爵家の筆頭家臣は、城代とも呼ばれていた。
何故なら、公爵家当主が王宮や王城屋敷にいる時は、王都館を任されているからだ。
王都の城壁の一部でもあるサライダ公爵館は、城と言っても過言ではないのだ。
その城の一切を任されているから、他の家臣や領民から尊敬を込めて、御城代様と呼ばれている。
そんな彼が、決意を秘めた目で、同じ家中の者達に指図していた。
彼から見れば、サライダ公爵家は存亡の危機に瀕している。
あの強欲な王太子殿下とメイヤー公爵が手を組んだのだ。
絶対にサライダ公爵家の乗っ取りを画策している。
いや、取り潰して自分達の領地にしようとしているだろう。
そう考えた城代は、婚約破棄で済んだことを喜んでいた。
王太子殿下や公爵が頭の切れる男なら、カチュア様と結婚して、人質にした上で、公爵家を乗っ取る事も可能だったからだ。
だが安心ばかりもしていられない。
王太子殿下と公爵が馬鹿な手に出たと言う事は、強硬策も辞さないと言う事だ。
代々一人っ子が多かったサライダ公爵家は、カチュア様が殺されてしまうと、後を継ぐべき近親者がいない。
そんな点もあり、国王陛下は、王家とサライダ公爵家の血のつながりを強め、王権の強化を狙われたのだが、王太子殿下があれほど愚かで強欲な人間に育つとは、賢明な国王陛下も思われていなかったのだろう。
国王陛下が御健勝であられたら、王太子殿下とメイヤー公爵も、このような愚行には出なかっただろう。
いや、今は何が出来るかを考えるべきだと、城代は意識を切り替えた。
王太子殿下とメイヤー公爵が、自分達の悪事が露見するような手を使うとは思えない。
だが、警備を厳重にする必要はある。
王家に謀叛を企んでいると、ありもしない叛意を捏造させるわけにはいかないので、目立たないように、奇襲を想定した警備計画を立案しなければならない。
何より一番しなければいけないのは、カチュア様の護衛強化だ。
なのに、なのにだ。
カチュア様は、領内の一番端にまで御身を運ばれて、オアシスにおられる精霊様に祈りをささげると言われる。
城内の奥深くに隠れていただきたいのに、これに関してだけは、断固として聞き入れて下さらない。
普段なら、家臣達の忠言には従って下さる賢明な方なのに、この件に関してだけは、何度説得しても聞き入れてくださらなかった。
ならば家臣のなすべき事は、与えられた条件の中で万全を期すことだけだ。
そう決断した城代は、家中の者をやりくりして、カチュア様の護衛班を編成した。
幸いな事に、王太子殿下と婚約した事で、多くの戦闘侍女が育てられていた。
カチュア様を、王太子殿下の正室の座を狙う、他家の刺客から護るためだった。
戦闘侍女を核として、腕利きの家臣を護衛に回すのだ。
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