第6話
(敵だよ。
敵が来るよ)
え、なに?
誰なの?
(敵だよ。
直ぐに敵が来るよ。
早く逃げて。
お願い!)
「敵です。
敵が襲ってきます。
急いで館に戻ります」
「戦闘侍女は、御嬢様の周りを固めろ。
騎士は周囲を警戒しろ」
「「「「「はい」」」」」
「「「「「はっ」」」」」
カチュアの心に、唐突に想いが伝わってきた。
カチュアの身を心から案じる、父母の愛情にも似た想いだった。
だからこそ、不意の意味不明のメッセージにもかかわらず、カチュアは素直に指示に従う事にしたのだ。
大切な精霊様への祈りの途中ではあったが、死んでしまっては二度と祈りを捧げることが出来なくなる。
重い怪我を負っても、祈りを捧げることが出来なくなる。
健康であらねば、水乙女の務めは果たせないのだ。
「うぉぉぉぉ」
「殺せぇぇぇぇ」
「やっちまえぇぇぇ」
「公女をやれば、成り上がれるぞぉぉぉぉ」
不意だった。
全くの奇襲だった。
他領の人間がサライダ公爵領に入らないように、厳重な警戒をしていた。
だが、まさかこんな場所から入り込むとは思っていなかった。
敵は、地下用水路から飛び出してきた!
オアシス都市に住む人間にとって、オアシスは神聖にして侵すべからず聖域だった。
それに近い存在が、オアシス都市に住む者全員の飲み水を担う、地下用水路だった。
畑に必要な水も、全て地下用水路でオアシスから引かれている。
地下用水路は、オアシス都市に住む人全員の命綱なのだ。
だから誰もがとても大切に扱い、ゴミ一つ落とす事も恐れ、清浄に保つようにしていた。
そこに穢れた身体で入り込むなど、誰も考えもしない事だった。
地下用水路を新たに掘ったり保守管理する事は、騎士や神官が担うほど神聖な仕事だった。
カチュア様を護ると言う、重大な役目に任じられた者達ですら、奇襲路として考えなかったほどの盲点だった。
完全な奇襲を喰らった護衛隊ではあったが、直前に出されていた、カチュアの警告が生きていた。
剣と盾を構えて、周囲に警戒の目を向けていた。
足元から不意を突かれはしたが、致命的な攻撃からは逃れられた。
攻撃してきた人間が、全くの素人だったのも幸いした。
大声を出して自分を鼓舞したんだろうが、その声が奇襲の効果を著しく低下させた。
武器も防具も貧弱で、完全武装の護衛侍女や騎士団には全く通じなかった。
(毒だよ。
毒を剣に塗っているよ)
「毒です。
毒に気を付けて。
敵は剣に毒を塗っています」
カチュアの警告を受けて、護衛は気を引き締め直した。
敵は鈍剣に毒を塗っていたが、剣を相手に届かせるほどの使い手は一人もいなかった。
だが問題は、敵が剣に毒を塗っていた事だった。
地下用水路に毒を混入された恐れがあったからだ。
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