第4話

「王太子殿下ぁ、あのまま返してよかったのですかぁ」

「婚約破棄を言い渡した直後では、事故であろうと王宮内で死なれては困るのだ」

「確かにその通りではございますがぁ、サライダ公爵家がぁ、他の王子と手を結ぶと危険でございますぅ」

「あの腑抜け夫婦に何が出来ると言うのだ」


 王太子とシャーロットは、時期では意見の相違があったが、サライダ公爵家を潰すと言う考えは一致していた。

 王太子は自分の地位と権力で何時でも潰せると考えていたが、カチュアを直接見たシャーロットは、本能的に危険を感じていた。


「ですが王太子殿下ぁ、私達の子供の為にもぉ、公爵家を潰すのはともかくぅ、カチュアは亡き者にしておいた方がぁ、いいのではありませんかぁ」

「シャーロットが言うなら殺しておくか」

「ただぁ、殿下が疑われてはいけませんのでぇ、私の知り合いにやらせますぅ」

「よきにはからえ」


 シャーロットは急ぎ養家に人を走らせた。

 メイヤー公爵家なら、そのような人材はいくらでもいるからだ。

 だが今回は、暗殺の専門家に任せる訳ではない。

 暴漢に襲われ、輪姦の末に殺させる心算だった。


 シャーロットの使者から話を聞いた、メイヤー公爵家当主のエイドリアン・メイヤーは、直ぐに謀臣に暗殺の指示を出した。

 指示を受けた謀臣は、幾人もの人間を間に通して、メイヤー公爵家が関連していることを隠し、実行犯を整えた。


 サライダ公爵家領では、全ての民が安心して暮らしていたが、他の多くの貴族家の領地では違っていた。

 貴族や陪臣に不当に痛めつけられ、重税を課せられていた。

 多くの人が差別と貧困にあえいでいたのだ。


 特に王太子直轄領とメイヤー公爵領は酷かった。

 年貢だけでもサライダ公爵領の三倍の税がかけられ、地下用水路から引かれた水にも、高額の税が課せられていた。

 年貢を納められない家は、妻や娘が奴隷として連れ去られていった。


 女達はまず最初に王太子や公爵に乱暴され、その後で陪臣や兵士に気が狂うまで輪姦された。

 その後で、陪臣や兵士と癒着している犯罪ギルドに売り払われて、売春婦として死ぬまで働かされた。

 この世の地獄と言えるのが、王太子直轄領とメイヤー公爵領だった。


 そんな領地だから、犯罪者ギルドも力を持っていた。

 しかし犯罪者ギルドも、今の段階で配下の者を使うわけにはいかない。

 王太子殿下や公爵殿下にまでは捜査の手は伸びなくても、それぞれの陪臣にまでは、捜査の手が及ぶかもしれない。


 何と言っても、まだ国王陛下は生きていて、宰相以下の官僚はそれなりに働いているのだ。

 そこで、地獄のようなメイヤー公爵領で成り上がる事を目指している、野心的な若者たちを唆す事にしたのだ。

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