第3話

「御父上様、御母上様、早く逃げなければいけません」

「どうしたんだ、カチュア」

「王宮で何かあったの、カチュア」


 王城内のサライダ公爵家の屋敷に戻ったカチュアは、王宮での出来事を両親に話した。

 謀略が苦手な両親も、事の重大さに気が付き、王城屋敷付き重臣を呼び寄せ、急ぎ善後策を相談した。

 対応策を任された重臣は、婚約破棄は受け入れるにしても、公爵家の権力を出来るだけ残そうと考えた。


 だがここで、カチュアが王宮で会ったシャーロットの危険性を訴えた。

 最初は半信半疑だった両親も、徐々にカチュアの訴えに耳を傾けた。

 重臣に至っては、疑問などさしはさむことなく、カチュアの言う事を信じた。

 唯一公爵家の血を引くカチュアの安全を優先したのだ。


 重臣は急ぎ王宮に人を走らせた。

 カチュアの婚約破棄を受け、本人と公爵夫妻が心労で倒れたと。

 同時に休暇願いも出して、王都内の館で静養したいと申し出た。

 王城内では危険だったからだ。


 ゴライダ王国は、東西交易の要衝だった。

 極端に水が少ない砂漠と荒野の中で、唯一巨大なオアシスがある場所だった。

 オアシスを中心に、五十万と言う民が住む王国だった。

 だから東西の大国に攻め込まれても大丈夫なように、城壁で護りを固めていた。


 少しオアシスから離れた岩山を中心に、三重の城壁で護られた王城は、本丸の王宮を中心に鉄壁の護りを誇っていた。

 だが、外敵には強かったが、内なる敵にはとても弱かった。

 王太子殿下とメイヤ―公爵家が敵に回ったら、刺客に殺される可能性が高かった。


 そこで王都内にある館に逃げる事にしたのだ。

 王都城壁はオアシスと民を護る城壁で、王城の総構えでもある。

 簡単に言えば、王城を護る城壁の中で、最も外側にあって、最も広い城内を持っている。

 その一角に、サライダ公爵家の館があったのだ。


 館とはいっても、小さな城とも言える堅牢な造りだ。

 それも当然で、外敵が攻め込んできた時には、城壁と一体化している館に籠り、外敵を撃退する事が期待されてるからだ。

 だからその周辺が公爵領だった。


 王都の城壁内は一四四もの坊に分けられている。

 公爵領は、八つもの坊からなっている。

 オアシスから地下水路が引かれ、家臣領民の家だけでなく、広大な畑まで広がっていた。

 今では城壁の外にまで地下水路が引かれ、サライダ公爵家の富の源泉となっていた。

 そこにさえ逃げ込めれば、王太子殿下も迂闊に手出しは出来ないと考えたのだ。


 王城屋敷の重臣は、急ぎ逃亡の手筈を整えた。

 国王陛下重病の噂は流れているが、未だ崩御の知らせはない。

 だから政治の実権は、現国王陛下とその重臣が担っている。

 王太子殿下には、自分の婚約破棄は独断で出来ても、休暇願いを握り潰すことは出来ない

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