VOL.5
何かを破壊するような音が響く。
ロックを破壊してドアが大きく開き、迷彩服姿の男が三人、なだれ込んできた。
最初に入って来た男は俺の姿を見るなり、一発発砲した。
向こうが発砲したんだ。俺は迷うことなく三連射する。
一発目は外れ、二発目と三発目は両肩を貫いて、相手はのけぞりながら
倒れると、後ろに居た二人が小型の自動小銃(恐らくAKS-74UN)を構えた。
俺が四射目を撃とうとした刹那、
『下がれ!』背後から低く鋭い声が響いた。俺が首を曲げると、そこには”大佐”がトカレフの銃口をこちらに向け、仁王立ちに構えていた。
半歩後ろに下がりながら、俺が見を縮めると、乾いた銃声が六発。
小銃を構えていた男二人は、ものの見事に彼女によってハチの巣にされた。
俺は
向こうは眉一つ動かさず、
『ご苦労だった。探偵君、ではお休み』と、何事もなかったように言うと、そのまま寝室のドアを閉めた。
やれやれ・・・・俺は転がっていたペットボトルを取り上げ、水を一口含むと、最初に撃った男に近づく。
幸い
俺は止血帯を出し、簡単な手当てを施してやった。
幾ら自分を狙った奴でも命がある限りは助けなきゃな。
出来るだけの処置を終えると、俺はまた座り込んだ。
どっと疲れたが、眠気は来なかった。
腕を組み、俺はそのまま目を閉じた。これ以上何も起こらないことを祈りつつ。
室内には静寂と沈黙、そして硝煙のきな臭さだけが支配した。
翌朝、午前9時、定刻通りにまた二等書記官氏と、それから米陸軍の士官の軍服を着た男が彼女を迎えに現れた。
彼らは襲撃を受けた南ベトナムの戦略村のようになっている室内を見回したが、大して顔色も変えず、士官に何事か伝えると、士官は同道してきた迷彩服姿の軍人に指示をして、遺体とけが人をさっさと運び出した。
『ホテル側には既に話はつけてあります。下の連中も怪我はしてますが、命に別状はありませんでした。損害賠償と現状復帰は、こちらで万事遺漏なく行いますのでご心配なく』彼は俺にそっと耳打ちした。
間もなく、寝室のドアを開けて、
『大佐殿』が出てきた。
一部の隙も無い軍服姿で、こちらの敬礼(俺以外の)に表情を全く変えることなく応える。
屋上を上がる階段、そして屋上のヘリポートにも、いつの間にか物々しい武器を持った見張りが約半ダース程立っていた。
屋上には米軍のマークをつけたヘリが一機、プロペラを回し、何時でも飛び立てる状態で着地していた。
彼女の姿を見ると、全員が再び直立不動で敬礼し、出迎える。
大佐はそれに答礼し、ヘリに乗り込もうと足をかけたが、
ふいに後ろを振り返って俺の顔を見ると、
『探偵君、あれを私にも一本くれ』と言った。
俺はポケットからシガレットケースを出し、蓋を開けた。
彼女はそこからシナモンスティックを一本だけ取り上げ、口に咥える。
『美味いものだな・・・・本当に気分が落ち着く』
大佐はそういうと、それまで見せたことのないような笑顔で笑い、機上の人となって、空に舞い上がっていった。
話はそれで終わりだ。
米国大使館からは一日分のギャラ六万円と必要経費、それから危険手当の四万円、それからご丁寧に成功報酬として余分に八万円を加算してくれた。
たったあれだけのことしかしなかったのに、まあいい稼ぎには違いない。
”大佐”はどうなったって?
彼女は予定通り米国への形式的な亡命に成功し、それとほぼ同時に自国内では反乱軍が一斉蜂起・・・・つまりはクーデターを起こして、独裁者とその追従者を一掃したそうだ。
近いうちに彼女は再び国に戻り、新政権の首班になるだろう。
米国政府が尻押しをしたんだ。失敗することはあるまい。
どっちにしろ、俺には関係のないことだ。
終わり
*)この物語はフィクションです。登場人物その他全ては、作者の想像の産物であります。
危険な二人 冷門 風之助 @yamato2673nippon
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