第3話 はじまりの出会い

 少年と子どもらが森へ探検に出かけた頃、村の教会にはお触れが届いていた。

 壁扉に映し出された映像には、黒髪の男の顔と“異端者”の文字が強調されている。


 お触れはいつもこうである。

 偶のお祈りをする教会に、時折映される“異端者”の顔、何をした者なのか、何をされる者なのか、自分たちはどうすれば良いのか、大事なことは何一つ教えられはしない。

 村人たちからすれば意味のないものであるが、意味はなくとも話の種にはなるだろう。


 人混みとも言える数が集まると、ごった返す騒めきに埋もれ、遠くで鳴った小さな響きは耳に届かない。

 ましてやそれが、幾年も聞くことのなかった火薬音ともなれば、耳馴染みのない音は虚に消える。


 泡や静けさと消えた響音は、誰にも気付かれない彼らの一大事を表す音であった。

 無理もない。彼らが森に入ったことすら知らないのだから……























─────ゴクリと唾を飲む。

 喉の唸りがハッキリ聞こえるほどの静寂と、それほどに張り詰めた場の緊張は、限界まで引き延ばされた糸に全身が縛られているように硬直した状況を作り出していた。


 すぐ崖下では恐怖に体を震わす少年らと、それを猊下にこちらを凝視する八つの複眼。


 巨大な蜘蛛が、カチャカチャと牙を鳴らしていた。


 睨みあったままどれだけの時間が経っただろうか、刻々と流れる汗を何度目か分からない同じ仕草で拭う。分からないという答えだけが、ずっと頭の中で回っている。

 アレは何だ、アレは何だ、アレは何だ、アレは何だ……蜘蛛だということは分かっている。それを前提に、いや、それ以上の理解を脳が拒む。何よりもまずデカイ。僕らの背を優に超え、家ほどもある大きさのそいつは、それよりもっと信じられない事に、猟銃の直撃に傷一つ付かなかった。

 正確には、擦過傷のような痕が体毛に残ってはいるが、それだけだ。体液は流れず、痛撃に怯える様子もない。


 筒口からはまだ白煙が線を引いている。


 下に落ちた子たちも、恐怖に嗚咽を漏らすばかりで立ち上がることも出来ていない。

 動いてくれと、無理なことを願わずにいられない。自分の手の震えも止められないと言うのに、ここよりもっと近くでアレを正視してしまう位置にいる彼らに、今すぐ逃げてくれと、そう要求せずにいられない。

 自分が動かずにいる、動かないままでいる事が分かっているから、別の誰かに動いてくれと願っている。


 鎌首をもたげる大蜘蛛を前に、僕らはただ怯え竦み、迫りくる命の危機というものを茫然と待つばかりだった。

































─────────目を瞑った僕らの耳に、ドルンドルンと、重たい音が届く。

 一白遅れて、唸るような高音が森に響き渡った。

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