変人たちの最激戦区その9
デンゲル国のデンゲル第一主義は瞬く間にデンゲル全土を覆いました。
元々デンゲル人の多くは法治や国際協調という文明的な縛りを嫌う特性がありました。
「法より情」です。
これ自体は必ずしも悪いことではありません。
法治というのは、時代が下るにつれ、厳しく、細分化しやすいものであり、歴史を通して見ても、国家が滅びる前には度が過ぎた法治とそれを維持できないほどの治安の悪化がセットで来るというのはある種の定番だからです。
しかし、この時のデンゲル人は反対方向に極端に走っており、無法と恣意的な法解釈で治安や公正が明らかに壊されていました。
宰相支持派の人々が、そうでない人々に暴力を加えても、「愛国無罪」とされてほとんど法で罰せられることはありませんでした。
こうなると、国際的常識をある程度わきまえていた一部のデンゲル人も、自分や家族を守るためにデンゲル主義に染まるか、少なくとも染まる振りをしなければならなくなりました。
そうです。
デンゲルの父もその流れに逆らうことは出来ず、内心では悔しさや罪悪感を沢山抱えながらもデンゲル主義者であることを公言し、それにふさわしい行動をとるようになりました。
当初は開明派ということで、宰相派からかなり疑われましたが、彼は外交官であり、腹芸は得意中の得意でした。
こうして、彼は災難を逃れ、一応の安全を確保しました。
しかし、彼はこうしたデンゲル国の振る舞いはいずれ破綻が来ることを確信していました。
それは、彼が持つ海外での知識、とりわけ政治と歴史に関する知識がこの極めていびつな国を国際社会が、あるいは国内が許さないという認識によるものでした。
こうして、テレスの父はデンゲル国内で「デンゲルの良識派」を演じる一方、彼の息子、つまりテレスを隣国でありかつ国際社会においてもある程度信用のある安全な国「ひだまり」に避難させて来るべき次の段階を忍耐しつつ準備することにしました。
この役目をテレスが引き受けた時、彼はデンゲルの基準で見ると「変人」をはるかに超えた、「狂人」となることになったのです。
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