狡兎死して走狗烹らる その3

その日は快晴でした。

残されたわずかなインフルエンサーとその取り巻きたち約10名は小さなバスに乗り少し遠くの山に出かけていきました。


一時期数十万のフォロワーを持ち、テレビや新聞や雑誌などのメディアで爽やかな演出されたイメージを世間に認められ、選挙の時には100万単位の票を動かしてきたといわれた存在とは思えないほど皆こじんまりしていました。


たとえ動機が現実からの逃避だったとしても、心を病んだ人間たちが大自然に立ち返ってリフレッシュしようとする行為に、断罪をする人はいなかったでしょう。


皆、疲れた中にも明るい表情がチラリと見えていました。

障碍者が多いこの小さいバスの中で、あるものは歌い、あるものは手を叩き、あるものは笑顔をみせてつかの間の幸せを満喫していました。


それぞれが手、足、耳、目、その他障碍をかかえていましたが、足りないものではなく自分に出来る表現方法で場を盛り上げていたのです。


都会から高速を抜け、山道に入り曲がりくねった道路を運転手が右に曲がろうとしたとき、「ドン」という音と共に車が運転手の意志に反して車は直進した後制御を失い、ガードレールを突っ切っていきました。


その先には崖があり、バスは真っ逆さまに落下していきました。

その高低差は人が助かるにはあまりにも過酷なもので、落下した車が最下層につくころまでにその衝撃でほとんどの人は即死状態でした。


その後車は炎上し中にいた人たちは全員死亡しました。

彼らの多くは障碍者でしたが、仮に健常者や屈強な肉体をもっていたとしても助からなかったでしょう。


こうしてSNSによる情報戦の一幕、障碍者クラスタと6人組とヒキコモリーヌ、そしてテレスとの戦いは終わりを告げました。


勝敗を論ずるならもちろん6人組たちの勝利であり、障碍者クラスタのうちガチス統合国とデンゲル国に強い支援を受けていたインフルエンサーたちの敗北です。


しかし、勝利を無邪気に喜ぶものは6人組の仲間たちの間でもごく少数でした。

とりわけこの情報戦に深く関わっていたものたちは事の深刻さに頭を痛めていました。


走るウサギ (兎)はまだ多くいるが、役に立たない犬に無駄飯を食わす必要はなし。

そして煮た犬 (狗) を巡って新たなる戦いが始まるのでした。

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