第219話 芹沢鴨といろはの「ゑ」(え)

酔(ゑ)える世を 醒(さま)しもやらで 盃(さかずき)に 無明(むみょう)の酒を 重ぬるは憂(う)し


現代語訳

迷いの多いこの世の中で、酔ってなお盃を重ねるように、心の迷いを重ね重ねてさらに踏み迷うことは、まことにみじめで情けないことです。


さて、またもやお酒に関する話題です。

今回はかなり重い助言です。

黒田清隆総理にとっては痛恨の言葉かと思います。


さて、彼とほぼ同じ時代にやはり酒で失敗した人物がいます。

その前に皆様に質問です。

近藤勇、土方歳三、沖田総司、斎藤一、以上名前を挙げた人物をご存じでしょうか。


幕末の歴史好き、あるいはテレビなどでイケメン好きの方であれば皆様ご存じの、そう「新選組」です。

その生きざまと存在感ゆえに多くの人々の心を惹きつけ、今でも大人気のいわば歴史にその名を残した人々です。


ところで、芹沢鴨といきなり言われてすぐに「あー、あの人ね」とか「あの芹沢さんね」ねといった反応はほとんどないと思います。

でもこれってある意味不思議なことです。

その辺も含めて調べてみましょう。


芹沢鴨はあの「新選組」壬生浪士の初代筆頭局長(頭取)であり、近藤勇や土方歳三よりも上の立場にいました。

しかし彼の日常は昼間から酒を飲んでおり、しかも相当酒癖が相当に悪かったようです。


ある時、水口藩に対して因縁をつけ、宴会の席を渋々設けさせます。

本来ならばこの席では手打ちということでめでたい席となる予定でしたが、ここでも彼は酒に酔って暴れまくり、店をめちゃくちゃにした挙句その店の店主に責任を擦り付けて、7日間の営業停止を命じます。


こうした乱暴狼藉を多く行い、それによって新選組の評判はひどいものとなりました。

いくら筆頭局長とはいえ、これを放置するのは新選組の評判を損ね、存在価値をなくすものになります。


なにしろ、「尽忠報国の志がある」という触れ込みで隊員を募集した集団です。

彼らが日頃命がけで治安維持活動をしていると言っても限度がありました。

そこで、土方や沖田といった新選組の幹部たちがこの暴走を止めるため行動を起します。


その前後にも、芹沢は芸者に狼藉を働こうとして、それを拒まれると芸者たちを断髪するという暴挙を行うなどその酒乱ぶりは改まることはありませんでした。


そして、芹沢鴨の人生最後の日、やはりというべきか彼は宴会で芸者を侍らせながら泥酔した状態で布団に入っていました。

そして、部下であるはずの新選組隊士によってあっけなく惨殺されました。


彼の当時の立場からして、もし生きていれば土方歳三や沖田総司や斎藤一のように歴史に剣士、あるいは戦人として名誉ある名を残すことが出来たかもしれません。

しかし、彼は殺される原因も、殺される時の状態も泥酔した状態でした。


幕末の激動の時代でいろいろ悩みはあったかもしれませんが、「迷いの多いこの世の中で、酔ってなお盃を重ねるように、心の迷いを重ね重ねてさらに踏み迷うことは、まことにみじめで情けないことです。」

といういろは歌の言葉を聞いた後だと虚しさが残ります。


芹沢鴨、歴史に燦然と輝く新選組で酒に酔ってつぶれた男、酒の恐ろしさを改めて肌身に感じる人生でした。







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