第208話 糟糠(そうこう)の妻といろはの「き」
聞くことも また見ることも 心柄(こころがら) 皆迷いなり 皆悟りなり
現代語訳
心ここにあらざれば視(み)れども見えず、聴けども聞こえずというように、聞くことも見ることも心の持ち方次第です。
時には迷いとなり、時には悟りともなるのです。
歴史を見ると、色香に惑わされたり、酒池肉林な状態に置かれたり、金銀財宝に目をうばわれたりすることによって心が乱れまくり迷いまくる事例が沢山あります。
いちいち取り上げるときりがなく、また今の世界や日本でも政治家をはじめ、経済界や芸能界などでこうした乱れた状態が沢山見受けられます。
なので、今回は迷わなかった人物と迷いながらも悟り(?)我に返った人物についてのお話をしたいと思います。
迷わなかった男の名前は宋 弘(そう こう)2000年前の中国、東漢(後漢)の司空(しくう)、現在でいえば建設大臣の様な存在であり、行政で最高位を意味する三公の一人でした。
彼はある時、時の皇帝から、「君も偉くなったし富も得たのだから、それにふさわしい妻を娶ったらどうか」と言われます。
ちなみに皇帝としては、自分の姉が未亡人となったため、彼と結婚させようという魂胆がありました。
これに対して宋 弘は「『貧乏をしていたころ知り合った友は忘れてはならない。貧乏暮らしで苦労をともにした妻は粗略にしてはならない』と私は聞いております」と答えきっぱりと断ります。
ちなみにこの話の原文の「糟糠の妻は堂より下さず」が、故事成語となって今日にまで伝わっています。
「糟糠」とは「酒かすと米ぬか」のことで、粗末な食事の代名詞。
「堂より下さず」とは「座敷から下げない」という意味で、つまり正妻の地位から追い出してはならないということである
さらに情報を追加しますと、宋弘と妻の間に子はなかったそうです。
宋弘は、祖先の祭祀をりっぱに行い、子孫にもそれを伝えることが最高の美徳である中国において、それよりも「糟糠の妻」に報いることを選んだ。とあります。
別の時には、宋 弘が推薦した部下が皇帝の命により、宴会の席で淫らな音楽を琴で奏でていたことを知りました。
彼は皇帝の前に進み出て、風紀を乱したのは推薦した自分の責任あると謝罪しました。
それを見た、皇帝は即座に態度を改め、真剣に謝罪し、淫らな音楽で琴を奏でさせないことを約束し実行しました。
また、別の場面では宋弘が皇帝に謁見していた時、皇帝は美人が沢山書いてあるエロ屏風に夢中になり話を上の空で聞いていました。
宋弘はその様子を見て、まじめな顔で「未見好徳如好色者(いまだ徳を好むこと、色を好むが如き者を見ず)」と「論語」の章句を口にしたので、皇帝は屏風を直ちに片づけさせました。
皇帝笑って「聞義則服(義を聞けばすなわち服す)。これでよろしいか?」と「管子」の一句を借りて問うと、宋弘は答えて「陛下が徳を進められる。臣下にとってこれ以上の喜びがありましょうか」と返します。
さて、このように宋弘は心をしっかり持ち、迷うことなく自分の職務をまっとうしました。
そして、もう一人の登場人物も色香や音楽に惑わされたりしましたが、宋弘の助けもあって道を外すことなく名君として歴史に名を残します。
最後に紹介しますが、この皇帝の名前は「光武帝」、劉秀です。
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