其の拾陸 「イヒカ様」{怖}前編

ちょっと前に、田舎のじいちゃん家に三回忌に行ったんだけど、その時の話。


儀式?自体はもう終わって、暇だった俺は庭をぶらぶらしてたんだ。

じいちゃん家って裏庭に古井戸があって、覗いてみたら水が入ってたんだよ。

昔覗いたときは枯れ井戸だったんだけどね。

多分、田んぼの季節だからここにも水が入って来たんだろうと思って、面白半分で小石を落としてみたんだよ。言い訳するなら、深さを測ろうかと思ったんだ。


そしたら、小石が水に突っ込んだチャポンって音がしたあとに、何かがグルンって動いた。かなり大きかったから俺、


「うおっ!?」


って吃驚びっくりしてさ。


見た感じ巨大ななまず雷魚らいぎょだったから、叔父さんと叔母さんにその事を報告したんだよ。


「裏の井戸に小石投げたら、でっかい魚いたんだけど、前からいたっけ?」


ってな感じでな。そしたらすごいめんどくさそうな対応されたんだわ。

なんか、うわぁやっちゃたよ、こいつ…みたいな空気を感じた。


で、ばあちゃんにもその事伝えたんだよね。やっぱり、親戚の叔父さんとかよりもばあちゃんの方が優しかったから。

そしたら、


「坊、お前『イヒカ様』に石を当てよったんか!?罰当たりな!」


みたいなこと言い出して。更に、


「今すぐうちの畑から野菜持ってきて、井戸のそばに置いてイヒカ様に御供えしんさいっ!」


って言うんだよ。

俺はなんかよく分からんかったけど、素直に畑に行って適当な野菜を取って来て、ばあちゃんに言われた通りに井戸の傍に置いて、供えといたんだ。

それを一晩そのままにした。そんで次の日の朝、俺が見に行ったら野菜が無くなってたんだ。


「ばあちゃん、昨日置いた野菜、無くなってんだけど」


ってばあちゃんに言ったら、


「イヒカ様が持ってったからもう大丈夫や」


とか言うんだよ。どうやら叔父さん達ももう知ってるようで、そっちにも似たような事を言われた。

ただ、そん時の叔父さんの顔がめっちゃ険しくってちょっとビビった。そんなこと言われても此方こっちは何が大丈夫なんだか訳分かんなかったんだよ。


そんでも、何で野菜が無くなったかの謎は、本当なら俺は見れるはずだったんだけどな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る