第3話 一番の屑

身だしなみを整えることは、重要だ。

私はいかなる仕事に対しても礼節を重じる。

そうすれば、必然的に相手にも好印象を与え仕事が円滑に進むのだ。

私はこの自論を大切にし、一度も気を抜いたことはない。

たとえその任務が交渉や売り込みではなく、拷問だったとしても。

だから身だしなみには十分注意して、朝起きてからの着替えは1時間はかかる。

「あのぅランバルトさん」

ドンッドンッドンッ

荒々しくドアを叩く音が響く。

だが私はそんなことも気にしないで、自分の身だしなみの良さに、うっとりする。

良い!良い!今日もとても完璧だ!

「ちょっとランバルトさん!」

ドンッドンッドンッ

ドアが壊れそうな勢いだ。

全くうるさいですねぇ、、、

「なんですか!?今身だしなみの最終確認中というのに!」そうが言いながら、私が扉を開くと不満そうな様子でメアリー・ローズが立っていた。

彼女はすでに準備を終えていて、

3本のトマホークもしっかりと研がれている。

「また身だしなみですか?いつまで私を待たせるんですか!」

「まぁまぁローズさんあなたが待っていてくれたおかげで私の身だしなみはより良くなったのですから良しとしませんか?」

「でも1時間はかかりすぎなような、、、しかもあまり変わってないし」

彼女はなにかボソッと呟いた。

「何ですか?」

「いえ、なんでもありません」

このメアリー・ローズは私の護衛役だ、この屋敷での参謀を務める私はいつ命を狙われてもおかしくない。

「仕事前に身だしなみを完璧に整える、これは重要なことですよ」

不満そうな彼女をなだめながら、私達は仕事場へ歩き出した。

私はブランド家の屋敷の中で生活を送っている。その方が安全であり、緊急時にもすぐに対応できるからだ。

メアリーと仕事の確認をしながら階段を降りると、「よぉ!ベンじゃねぇか!」という声がして、ある男が近づいてきた。

「アームストロングさんですか?」

彼は酒ビンを傾け喉をグビッと鳴らす。

ビリー・アームストロング相変わらず古びたコートを着ている。

"血塗り"のビリーなんて呼ばれていたりするが、きちんとした格好をすれば、女性にもモテそうなワイルドな顔立ち。だが、どうも小汚さの方が目立つのだろう。

「まったく、人に話しかけといて酒を飲むなんて」

「まぁまぁかたいこと言うなよ。

お!よお!ねぇちゃん!相変わらず綺麗だな」

私がチラリッと彼女の方を見ると、彼女のトマホークの鈍く光っていた。

「落ち着けよ、もうちょっかいかけねぇからよ」

以前ビリーがメアリーにちょっかいをかけ、殺されかけていることはボスから聞いている。

少しは懲りたのだろうか、、、

「相変わらずですね、それにしても、、、」

私は改めて彼の顔を見た。

「あなた目をやられたのですか?」

彼の右目には眼帯が付いていた。ジョージ殺害後彼は、別の任務があり久しぶりに顔を合わせたので私は驚いた。

「ん?あ、これか?ちっと油断しちまってな」

「目を犠牲に、ジョージを殺ったのですね」

「まぁ、そんなとこだ。でも、金はたんまり入った」

彼は金を見せびらかす。だが私の目に入ったのは金ではなく、手の傷だ。

彼が今までこんなにも戦いで負傷するのは、とても珍しいことだ。

「その手の傷もジョージ・スミスですか?」

「あぁ、これか?これについてはお前に言っておくことがある、、、」

彼は少し真面目な顔になった。

「ホワイトの遺産を狙ってるのは俺たちだけじゃあない。

赤髪の男が現れてな、弓と矢そして特徴的なトマホークを持っていた」

「トマホーク?」

私がそう聞き返すと、「そうそう、ちょうどねぇちゃんのようなトマホークさ」

メアリーが反応する。ビリーはメアリーを横目で見て「ねぇちゃんはよく知ってるかもな、そのトマホークとそっくりだったよ」と言う。

「、、、」

メアリーの目からは激しい憤りを感じる。

「"狂人"が現れたということですか、、、厄介だ」

"狂人"最近名を上げたその男の通称だ。

盗みに入った家の住人を惨殺することから、こう呼ばれる。

そして彼は殺した相手の額にバツを刻むのだ、まるでマーキングをする獣のように。

そして、赤髪に弓矢やナイフ、トマホークと言ったらサン・ラー族の出であることは確かだ。

メアリーと関係性があってもおかしくはない。

「あぁ」

「しっかし、長年の相棒(銃)を亡くしたのは痛手だぜ。

まぁ、防がなかったらきっと俺の腕が持っていかれてた。

その代わり、このダブルアクションが次の相棒だ」

彼は自慢げにその銃を見せる。

だが、私は銃に対し全く関心がない。

また、メアリーもだ。

「そうですか、、、まだ、ホワイトの残党も残っているわけですし、厄介ごとは増えるばかりですね、、、さてと、話は以上ですか?私達は仕事があるので」

「おおベン!ちょっと待て」

彼は私の肩を掴んだ。

「まだ何か?」

「仕事うまくやれよ完璧主義者」

「、、、あなたこそ」

彼はそう言うともう一口酒を飲み、奥の部屋へ入っていった。

2.

今回の私達の仕事は、拷問だ。

初めての拷問であるからして、うまくできるか正直のところ不安だ。

だけれど、いつもは事務仕事しかしない私が新たにこのような仕事ができてとても嬉しい。

ブランド家の用心棒たちは、残党の掃討で忙しい。

特に事務仕事もないので私が抜擢されたのだ。

水攻めをするらしいが、コツなどあるのだろうか。

一応やり方は教わっているが。

ちなみに、相手はホワイト家の当主ミカエル・ホワイトだ。

「、、、やぁ、ミカエル。

今回は君に聞きたいことがあってね」

ミカエルの表情からは、恐怖心は全く感じられない。

当主であるボンボンとはいえ、彼もまた戦士であるのだ。

私はさっそく、彼を吊るし上げると下に水の入った大きな桶を置いた。

そして、限界まで彼の顔を並々注がれた水の中に沈める。

そして引き上げると私は彼にこう問いかけた「貴方の莫大な遺産はどこにあるのですか?どこに隠したか、教えていただきたい」

すると、当主は私に口に入った水をかける。

「貴様のような小物に教えてたまるか!」

そうして、何度も何度も水に沈めては問いかけるものの彼の確固たる意志は変わらない。

決して場所を吐こうとしないのだ。

「、、、なけなか強情ですね、、、仕方ありません、、、メアリーさん彼女を」

奥の手だ、ホワイト家が我らがブランド家を襲撃している間に、ビリーはホワイト家を襲いこの当主とその娘を捕まえてきていた。

すると彼女の表情が変わる。

「、、、待ってください、彼女は関係ないじゃないですか」

メアリーはこういうところで、正義感がある。

誰かへの拷問など彼女は向いていないだろう。

私は拷問を一旦中止し、彼女の元へ近づくと当主に聞こえないようにこう言った。

「何を生ぬるいことを言っているんですか?早く連れて来なさい

それに貴女の一族は、ホワイト家に恨みがあるのでしょう?

今更同情することなんかあるのですか?」

「同情ではありません。

年端もいかない娘を拷問することは、戦士のやることではありません!」

これだから、誇り高き戦士というものは、、、

「はぁ、、、メアリー、メアリー、、、メアリー前々から思ってたが貴女はつくづく甘い、本当に甘ったるすぎて胃もたれしそうだ、、、最後の忠告です、、、私がこの男情報を引き出せず殺し2人仲良くブランド家を追放されるか、彼女を連れてくるか選びなさい」

彼女は一瞬目をつぶり、もう1度開くと

「では、彼女を傷つけないと誓ってください」などと言う。

埒があかなそうなので、私はとりあえず彼女の提案に乗った。

「誓いますよ、、、彼女を傷つけたりしません」

メアリーは、部屋から出てしばらくして娘を連れてきた。

18歳ぐらいで黒髪、美しいというよりは可愛らしい顔立ちをしている。

「、、、エマ!」

ミカエルは先ほどと打って変わって、狼狽えている。

「自分の命が惜しくないのはわかります、、、ですが娘はどうでしょうか?」

「エマに指1本でも触れてみろ!貴様を呪い殺す!」

すごい剣幕だ。よほど大切な娘なのだろう。

「では、答えてください。遺産はどこですか?」

彼は少し悔しそうな顔をし、「遺産は、、、フラッシュと言う男が管理している、街で薬屋をしている。私が最も信頼している男だ」

ミカエルは強く歯を食いしばる。結局この男も人の親だ。

「、、、どうも」

私は掴んでいたロープを離し、彼を水に沈めた。

苦しそうな、声が水の中から聞こえる。

「待ってくださいランバルトさん!彼はもう答えました。命まで奪うことはないでしょう!」

さっそく、メアリーが反発する。隣で、エマは怯えて声も出ない。

「、、、えぇですから、もういらないじゃありませんか。

それに、貴女の一族の恨みだって晴らせるんですよ?」

「一族の恨み?私はそんなもののためにホワイト家と戦っているわけではない!」

そう言ってメアリーは、自らのトマホークを引き抜き私の方へ投げた。

その刃は、私の方へ高速回転しながら向かってくる。だが、、、

「甘い、、、」

斧の刃は溶け出し、私の手へと集まる。

そうこれが私のギフト、、、金属を溶かし、自由に操ることができる。

「ベン・ランバルト!あなたはもっと紳士だと思っていた。これじゃあ、その辺の屑とやってることが同じじゃないか!」

メアリーは残りの2本のトマホークも引き抜く。

「くくくっつくづくお人好しですねぇ貴女は!

確かに私がこんなことするなど、驚きでしょう、、、いつもいつもデスクワークばかりでしたからね」

今の彼女の目からは怒りがこみ上げている、この私をここで行動不能にし、当主と娘を救い出すつもりだろう。

「ですが、これが私の本性。

貴女は、いつも表面だけ見て本質を見ようとしない。

そんなことでは、いつまで経っても他者に足をすくわれますよ。

あぁ、あと、、、その刃は私には届きません。今見せたでしょう、、、私の前では銃もナイフも斧も無意味だ。」

悔しそうにメアリーは歯をくいしばる。

「どうしたんですか?メアリー、早くしないと、ミカエルが亡くなってしまいますよ?」

そう挑発すると、彼女はトマホークを1本投げる。

「無駄だと言ってるでしょう」

それを溶かし、私は手の金属へ加えた。

だが、やはりメアリーは戦闘力が高いだけあり、私がトマホークに注目してる間に、間合いを詰めていた。

そして、残ったトマホークで私に斬りかかるのだが、、、

結局その刃は溶け、私に傷1つつけることは叶わない。

断然、私のギフトの方が早いのだ。

そして、その手に集まった溶けた金属を一気に彼女へ放つ。

彼女は金属の液体を浴び、私がメルトモードを解除したため、壁に打ち付けられ動けなくなる。

「さてさて、情報は聞き出せました。当主も始末ブランド様もご満足でしょう、、、

では、貴女はどうしましょうかねぇ、、、そして娘も」

娘は怯えた目をしている。

当主はもう動かない。

「安心してください、、、紳士は誓いを守るものです。なので娘を傷つけたりなどしませんよ、、、

ただ、貴女達には働いてもらいましょうか、お2人共顔立ちが良い。

きっと"果実園"で人気を得られますよ。」

「ベン・ランバルト!お前は今まで出会った中で1番の屑だ!絶対私の誇りにかけて、殺してやる」

メアリー・ローズは目を見開き獣のごとく唸る。

うるさいので、残った金属で口を閉じた。

「、、、メアリー、メアリー、メアリーそんなことは私がいちっっっばんわかっていますよ」

私は彼女へ笑顔を向ける。

メアリーの目からは、憎悪が感じられた。

3.

「反逆したメアリーそして、ホワイト家のエマ・ホワイトは"果実園"に送りました。

きっと、利益を増やしてくれますよ。」

「殺さなかったのか?もしもの時どうする?」

ボスは私に問いかけた。だが、かなりの愚問だ。

「大丈夫ですよ、果実園にはライルドがいますから。」

ライルド・ギャレット、ビリーほどではないがかなり腕の立つ男だ。

それに経営の手腕も見事なもの。

ただ、女性関係に問題が多い人物でもある。

「そうか、しかし皮肉なものだあれほど"果実園"を毛嫌いしていたメアリー、その本人がそこへ送られるなんてな」

彼は笑顔を浮かべ、深く椅子に座り込む。

そして何かを思い出し、「あぁ、それと報告だ」と改まる。

「なんでしょうか?」

「ホワイト家の用心棒どもの襲撃後ほとんど、残党を討伐できたが3人強敵がいる。

先程、部下が帰ってきてな」

3人、、、だいたい検討はついているが、一応聞いておこう。

「特徴などは?」

「金髪の青年、大男、あと女だ」

、、、奴らが生きている?そんなはずはない。

「あぁ、おそらくですが大男はダニエル・ホリハン女はジェニー・ホワイトですよ。

あの家の女の用心棒といえば、あの女くらいです」

ボスは眉をあげる。

「あいつらか、、、よりによって生き残るとはな」

ホワイト家によるブランド家への襲撃で大暴れした奴らだ。

奴らはもう消せているはずだった、、、だが、失敗したのか、、、

「じゃあベン、金髪の男は何者だ」

「、、、さぁ、ただの下っ端ではないでしょうか。

我が家への襲撃の際も目立っては、いなかったかと」

「、、、まぁいい、ギャングどもに探させよう。

お前は引き続きホワイトの遺産を捜索を指揮しろ」

私は深くお辞儀をし、「えぇ、お任せください」と言った。

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