第2話 真昼の決闘

1.

「調子は?」

「、、、悪い」

「飲むか?」

「あぁ一杯くれ」

ボスはショットグラスに酒を注ぎ俺に渡した。

「ビリー、そんな状態で仕事ができんのか?」

ボスは、不安そうに俺に言った。

ボスはそうだな、、、小デブだ。

具体的に言うなら禿げてスーツを着ている子熊を人間にした感じと言えばわかるだろうか。

サミュエル・ブランドそれが彼の名前だ。

俺は注がれた酒を一気に飲み干した。

「ああ大丈夫だ、もう大丈夫だ」

「たくっ、この飲んだくれが」

「まぁいいから、仕事の話をしてくれ」

ボスはゆっくり俺の方へ視線を向け、そしてスーツの内ポケットから一枚の絵を取り出し机の上に置いた。

「今回のターゲットはこいつだ」

俺は絵をとった。

「ジョージ・スミスか、ホワイト家の用心棒の」

「あぁそうだ」

まったく、とんでもない仕事を持ちかけるものだ。

ジョージ・スミス、、、名前だけ聞いても、ごくごくありふれている名前だ。

だが、この絵のジョージ・スミスは真偽のほどは定かではないが、葬ったガンマンの数は軽く100人を超えているとの噂がある。

トントントンっ

突然、誰かがドアをノックした。

「今取り込み中だ」

ボスは、葉巻をくわえながら言う。

「例の件でお話があるのですが、、、」

若い女の声が、ドアの向こうからした。

「俺は構わない、いれてやれよ」

綺麗な声をしていたので、俺は少し好奇心を持っていた。

「、、、そうか、入れ!」

「失礼しますっ!」

そこには、黒いドレスを着ていて、紅の髪のポニーテールの女が立っていた。

美しいのだが、道を歩いていても男に誘われることはないだろう。

なんでかって?

彼女のベルトにはトマホークが三本もぶら下がっているからさ。

真紅の髪か、、、そしてあの褐色肌。

この辺りの部族、サン・ラーの出身だろうか。

彼女はボスに何かを耳打ちしていた、何か内密なことだろう。

「、、、そうか、わかった。下がっていいぞ」

「了解しました」

彼女は軽くお辞儀すると部屋から出て行こうとした。

少しちょっかいをかけてみるか。

「よぉねぇちゃん」

彼女はピタッと止まる。

「なんでしょうか?」

「おじさんと良かったらこの後デートしないか?」

彼女は、振り向かずに「すいません、仕事がありますのでまた機会があれば」と言い、そのまま部屋を出ようとする。

「まぁ待てよ」

俺は、すかさず立ち上がり彼女の方へ近づく。

ボスは「またか」と呆れた様子だが、御構い無しだ。

「良いトマホークじゃねぇか、少し見せてくれよ」

俺がそう言って触ろうとした時、彼女の目は本気になった。

目にも留まらぬ速さで、トマホークを抜くと俺を切りつけにかかった。

間一髪で避けることができたが、彼女はそれをそのまま俺の方へ投げた。

「危ねぇ!」

もう少しで当たるところだった。

トマホークはそのまま後ろの本棚に突き刺さる。

ドンっ

ボスは机に手を叩きつけた。

「お前らいい加減にしろ」

少し頭の血管が浮き出ている。

「ご無礼を失礼しました」

「早く出ていかないか!」

彼女は深く頭を下げ、壁に刺さった斧に手を向ける。

すると斧が壁から勢いよく離れ彼女の手に収まった。

なかなか便利そうなギフトをもっているんだな。

そして彼女は丁寧に扉を開き、音を立てないようにしながら出ていった。

「あんまりうちのにちょっかいをかけるなよビリーあいつは得物に触られるのを嫌うんだ」

「あぁすまねぇ少しいたずらがすぎたな。

だが、正直あそこまで怒るとは思わなかったぜ」

「先住民というのは、馬鹿馬鹿しい民族の誇りとかそういったものに囚われてるのさ」

彼は葉巻に火をつけた。

「じゃあ、話を戻そう。いくらでやる?」

「正直、5000ドーラはいただきたいね」

「金ならいくらでも払える」

「そうかい、、、じゃあ一週間ほど時間をいただけるか?」

俺は机に絵を置いて彼の方を見た

「問題ない」

「しかし、どうして奴を始末したいんだ?」

「、、、お前うちの商売は知ってるな」

「あぁ」

このブランド家の商売は表向きは、煙草農園だ。

この男が農園の領主なのだが、裏ではギャングを囲い密造酒の販売、売春宿の経営、大麻の栽培などを行なっている。

こいつの収入源は主にこれだ。

「ホワイト家とは、密造酒の販売で利権を争っててな毎回毎回揉めるんだよ

そろそろ決着をつけようと思ってな。

手始めに奴らの用心棒のリーダージョージ・スミスを始末したいんだ」

「なるほど、、、もしかしてこの酒は?」

「あぁ、うちの密造酒さ。いい味だろう?」

おいおい何混ぜてるかわかったもんじゃないぜ。

「まぁ、味はいいんだが。何も混ぜてないよな?」

「はっはっは、さぁてそれは知らんな」

こいつの家で飲むときは、これから少し気をつけるとするか。

「まぁいい、俺はもう準備に取り掛かるとするよ」

俺はまた酒を注ぎ飲み干して立ち上がった。

まぁ、味はいいからな。

2.

俺は次にガンスミスの元へ向かった。

弾薬を揃えるためだ。

街はブランド家の屋敷からすぐ近くにあり、相変わらず賑わっている。

地べたに横たわる酔っ払いや、客引きの売春婦、喧嘩をする労働者達、、、

本当にいい街だと思う。

行きつけの銃砲店は街の中心部から少し外れたところにある。

「よぉ、繁盛してるかい?」

俺が入ると店主は銃を整備している途中だった。

少し歳のいった老人では、あるものの頭はしっかりしていて顧客情報も漏らさない。

信頼できる店だ。

「おぉ!ビリーじゃないか!今日は何をお求めで?」

「弾薬だ。大きな仕事がある。箱ごと売ってくれ」

「相変わらずの殺しかい?」

「あぁ、そうだ」

店主は早速俺の銃の弾薬を探す。

「えぇっとこれかな、、、今回のターゲットは誰だい?」

「、、、聞いて驚くな、ジョージ・スミスだ」

店主のシワが多くて垂れていた目がカッと開く。

「あの、、、、100人殺しかい?」

「あぁ、しっかりと準備しなきゃならねぇ」

「あんたが101人目ならないことを祈るよ、、、うちのお得意さんだからねぇ。ほら弾薬だ」

「世話になる」

俺は金を払い店を出ようとした。

「ちと待ちな、いいものがある」

「いいもの?」

店主は店の裏に入ると1丁の銃を持ってきた。

「最新式機構の優れものさ、試してみないか?」

俺は近づきその銃を受け取る。

見たところ、そんなに変わっているところはないが、、、

「最新式の機構ってのは?」

「この銃は、ハンマーをコックしなくても撃てる。

つまり、トリガーだけ引けばいい。

やってみな」

弾薬がシリンダーの中に入っていないことを確認すると、トリガーだけを引いてみた。

すると、ハンマーが起き上がり勢いよくダウンする。

「、、、なるほど、だが少しトリガーが重くないか?」

「確かにな。

この機構はダブルアクションと言うのだが。

わかってるだろうが、精密射撃には向かない。だが、こいつのいいところは、ハンマーをおこしておく必要がないから暴発も防げる。

それに連射が容易だろ。」

「試しに撃ってみてもいいか?」

「あぁ、どうぞ」

この店には試射用の射撃場がある。

早速的を撃ってみた。やはり少し撃つ時にぶれてしまう。

だが、このダブルアクションは制圧力が高そうだ。

それに、シングルアクションでも撃てるらしい。

弾込めも横からシリンダーが出てくるためやりやすくなっている。

買わない理由はないか、、、

俺は射撃場から戻ると早速この銃を購入した。

「早速、使うのかい?」

「いや、まずはこのダブルアクションに慣れてからだ。

戦いの中でいきなりとってつけたような戦術は持ち込まないほうがいい。

俺はこの銃(相棒)での射撃を一番信頼しているからな」

老人は笑みを浮かべて「そうかい」と言った。

そして、一通りその新しい銃の整備をしてもらい俺は、店を後にした。

俺は隠れ家に戻ると早速準備を始めた。

まず整備からだ、銃を分解してまずチャンバーの中を磨く。

そしてバレルの中の汚れもしっかりと落とした。

今回も使う銃は、いつものシングルアクションリボルバー2丁だ。

俺は確実な射撃をするためにいつも以上に綿密に整備をする。

そして、整備を終わらせると俺は仲間2人を連れ仕事に出た。

3.

ギィィ

男がウェスタンドアを開ける音が店内に響いた。

彼は、穏やかそうな雰囲気の中にどこか力強さを感じさせるような白髪混じりのカウボーイだ。

その男はそのまま歩き出し、少し古びたカウンター席に座る。

コトッ

マスターが彼の前にグラスを置き、新しく酒を開け注いだ。

彼は不思議そうな顔をして口を開く。

「俺はまだ何も頼んでいませんが?」

マスターは、ゆっくりと指を指す。

男が俺の方をみた。

「そいつは俺からの奢りだ」

俺がそう言うと彼は黙ってグラスを見つめていた。

「なぁに毒なんて入っちゃいねぇよ

なぁ?マスター」

マスターは何も話さずに頷いた、

「、、、」

彼は飲み干し、そのままグラスをゆっくり置いた。

店内は恐ろしいほどに静かだ。

「、、、まずい酒だ。なんて銘柄だ?」

「あんたも聞いたことがある銘柄だ」

彼は俺の方を見た。

「この酒、、、何か混ざってるだろ」

「ほぉ、わかるのかい?」

男は匂いを嗅いだ。

「こりゃあ、犬の小便じゃないか?

かなりくせぇ、、、俺の大嫌いな匂いだ。

さては、お前の小便だな」

彼はゆっくりとグラスをテーブルに置いた。

もう彼に俺の正体はバレているようだ。

「だが、思い出したよこの酒昔飲んだことがある。

なぁ、ビリー」

"ダンッ"

ほぼ同時だった、彼の銃弾は俺の帽子を吹っ飛ばし俺の銃弾は壁に穴を開けた。

俺は、衝撃で後ろに倒れ込んでしまったがすぐさま椅子を盾にし、男の銃弾をやり過ごしながら外に出た。

さすがは"ジョージ・スミス"だな。

もう少し殺気を探知するのが遅かったなら、俺は地獄に落ちていただろう。

俺はウェスタンドアのすぐ隣で中の様子を確認しつつ、弾を込めた。

彼もまた弾を込める。

店の周りは銃声のせいで大騒ぎだ。

ダンッ

彼の装填の方が少し早かったようだ

俺はなんとか避けたがウェスタンドアに穴が空き激しく揺れた。

再び店内を覗くと彼の姿はない。

、、、左か

俺は彼の殺気を探知し、銃弾を避けた。

するとジョージの姿が色付けされるようにゆっくりと現る。

透明化が奴のギフトだ。

だが正直、俺のギフトと相性が悪い。俺のギフトは索敵、敵の殺意から位置を探ることができる。

「なかなかやるじゃねぇか」

彼は楽しそうにニヤつく。

「あんた殺気が強すぎるんだよ。

ま、"100人殺し"と呼ばれたというだけはある」

「ただのあだ名さ。

本当はもっと殺ってる」

俺と彼は距離を取った。

お互いに一歩も譲らない。

4. イーサンの視点

戦闘開始20分前

周りは閑散としていた。

まぁ街の端だから仕方ないんだが、

僕は、ジョージさんが出てくるのを外で待っていた。

彼が中で何を話すのかは教えてもらっていない。

ただ、ホワイト家にとって重要なことらしい。

ギィッと音とともに彼は出てきた。

「ど、どうでしたか?

罠じゃありませんでしたか?」

「罠だったら今頃俺は血まみれだろうよ、返り血でな」

彼は笑った。

「さてと酒でも飲んでからかえるか」

「え!?」

「なんだ?」

「僕、この後予定が、、、いてっ」

彼はいきなり僕にデコピンをくらわせた。

「1杯くらい付き合えよ」

正直に言おう僕は酒に弱いんだ。

だがそんな言い訳はジョージさんには通じない。

しかしこの様子だと逃れれる方法はないようだ。

僕は渋々彼のあとにつづいた。

「そういえばイーサン、ジェニーちゃんに告ったのか?」

僕は突然すぎてこけそうになった。

「な、なんですか急に!」

「どうなんだ?」

「ま、まだですけど、、」

「まったく、早くしないと誰かにとられちまうぞ」

「そう言われましても、、、」

「あの子は口は悪いが美人だ。

ほかの男たちは彼女を放っておかないだろうよ。

俺が若かったら口説いてるね」

「、、、わかってますよ」

そんな会話をしながら歩き古い酒場に着いた。

あれ?ここって、、、

あの時の、、、まぁいっか。

「すいませんジョージさんちょっとトイレに行ってきます」

「そうか、なら先に入ってるぞ」

僕は彼が店の中に入って行くのを見守ると店の裏にあるトイレに向かい古くさい扉を開き中に入った。

あぁしかしトイレはどうも苦手だ。

臭くてたまらない。

僕は鼻をつまみながら用を済ませようとしたすると、

「いいか俺の合図でいくぞ」

外から小さく話す声が聞こえてきた。

まったくなんてタイミングが悪いんだろうか、ただまる聞こえだ。

「5、4、3、2、1、、、」

ドンッ

ドアが勢いよく開き木片が少し散らばった。

「、、、いない」

男は明らかに戸惑っている様子だ。

「上だよ」

僕は目の前にいた男に飛びつきナイフをつきたてた。

真っ赤な噴水がトイレを染める。

後ろにいた男はその様子を見て、怖気づいてしまったのか走ると馬に乗り、逃げようとした。

僕は、すかさず彼に向かってナイフを投げる。

それは背中に刺さり彼は落馬した。

僕は彼の元にすかさず走っていった。

「誰の差し金だ!」

彼は顔を背けた。

「あぁわかったよ君の考えはよくわかった」

僕は彼に刺さったナイフを抜きとり彼の手に突き刺した。

「ぐぁぁうぁぁうう!!!」

「僕をあまりなめないでくれ、次

は目に突き刺す!早く言うんだ!」

ダンッ

その時、店の方から発砲音が聞こえた

「なんだ!?」

「ジョージ・スミスは殺される。

透明化の能力なんてあの人には通じない」

僕は彼を殴って気絶させた。

その間も何発もの発砲音が聞こえる。

僕はそのまま店の裏口から中に入った

店の中は生々しく銃弾の跡が残っている。

しかしマスターは平然としていた。

「マスター、ジョージさんは?」

彼は外の方を指差す。

僕は壁に張り付きながら外の様子を見た。

ジョージさんは腕を抑えていた!

撃たれたのか!

僕が援護するしかない。

だけど、相手はあのブランド家の用心棒"血濡れ"のビリーじゃないか、、、

だけどやるしかない!

4

「やるなぁ、あんた」

ジョージは腕から血を流れるのを腕で抑えながら言った。

だが俺のシリンダーにはあと1発しか残っていない。

彼には多分2発はあるだろう。

次動き出した瞬間に勝負は決まる。

俺は右手に収まっている銃をぎゅっと握りしめた。

カチリッ

ハンマーが下りた音がした。

ダンッ

1発目のジョージの銃弾を俺はなんとか避けることができた。

俺はすかさずハンマーを下ろした。

"ダンッ"

「ぬぁぁあぐぅぅっ」

俺は思わず声をあげてしまった。

銃弾は俺の右目をえぐったのだ。

これは、ジョージの弾が当たったのではない。

明らかに店の方からとんできた。

熱い!ものすごく熱い!

血が溢れ出てくる。

俺はすぐさま近くの民家の窓を破り隠れた。

残った左目でジョージの方を見ると彼は無表情だった、ピクリとも動かない。

彼は突然吐血しその場に倒れた。

どうやら勝てたらしいな。

俺はすぐさまヨレヨレの服を脱ぎ、破り右目を覆った。

さて店の方から先ほどから殺気を感じている。

ジョージの殺気が強すぎて彼に集中しすぎていた。

この殺気はマスターではないだろう。

俺はリロードを済ませると慎重に店の方へ向かう。

そして店内に入り見渡すがそれらしき人物は見当たらない。

「マスターここに誰かいなかったか?」

そう聞いた瞬間、外から馬の雄叫びが聞こえてきた。

俺はすぐさま飛び出すが、それはすさまじいスピードだった。

乗っていたのは茶色の髪の男だ。

袖には血が付いている。

「まぁいい、しっかりと報告してくれ」

俺は銃を収めそしてまた店に入った。

「マスターあんたもしかして彼を庇ったのか?」

マスターは何も答えない。

「あんたはどちらかというとホワイト家は嫌いだと思ってたがなぁ、、、。

まぁいいそうだ店の修理代、これで済ましてくれ」

俺が金を差し出すと、マスターはやはり何も言わずに受け取った。

外に出るとまだ人はいない。

とりあえず俺は連れてきた仲間を起こした。

1人は完全に殺されている。

「おい、大丈夫か?ロバート?」

「ん、、、、、んぁビリーさん!いてててっ」

「ほら、医者行くぞ」

俺は彼を担いだ。

「茶髪にやられたのか?」

「はい、、、あいつかなり凶暴でした。」

「本当にホワイト家の用心棒どもは、シリアルキラーしかいねぇのかよ」

「ビリーさん、、、あなたも大概ですよ」

ロバートは笑ってみせた。

「ん?そうか?」

「まさか、、、あの"100人殺し"を倒すなんて」

この日を境に血濡れのビリーの名はかなり上がった。

そして、ブランド家の殺し屋がジョージを殺したことはすぐにホワイト家へ伝わった。

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