LOYAL DOGS

波馬 千乃

第1話 無法者が昨日運命蹴飛ばした

1.

2023年 日本

真っ暗だ

体も動かない

救急車の音、人の叫び声

そうか、、、俺事故ったのか

意識が薄れていく

これが死の感覚か、、、、


、、ない、、、、む


、、、ンド、、、


、、ロンド、、、


おい、、ろ!、、


おい!ブロンド


どこからか声が聞こえてくる

誰だ?

ブロンド?


おい!大丈夫か?しっかりしろ!おい!


ガタンッ


ん?、、、揺れてるのか?


「おい!寝ぼけてんじゃねえ!

起きろ!」


頭痛がする、、

俺は頭を抑えた。

何故か髪が逆立っている

風が吹いているのか?

ゆっくり目を開いた時

俺は思わず声を漏らしてしまった

「どうなってんだよ」

俺は疾風のように走る馬車に乗っていたのだ。

そして前方は荒野が広がって、そう遠くないところにぼんやりと町が見える。

今まで見ていた暗闇の世界はどこにいっちまったんだ。

「やっと起きたか、寝ぼけてる場合じゃねぇぜ」

隣から若い女性の声が聞こえてきた。

見ると手綱を激しく打っていて、

格好はまさにカウボーイといった感じ、髪は美しい金髪のショートヘアーカーボーイハットがよく似合っている。

、、、なにが起こってんだ。

俺はまだ完全には状況が把握できない。

俺が頭を抱えると、「大丈夫か?」

不意に後ろから話しかけられた。

とても野太い声だ。

俺は振り返った。

その男は座っていてもわかるほど大きな体をしていて、熊のような男だった。

ヒゲも伸びきっていって、少し小汚い。

彼の右手には、ライフルが握られていた。

俺は、そのライフルが何に使われようとしているのか理解した。

答えは後ろにある。

馬車は、馬に乗った男達に追われていたのだ。

昔観た西部劇のような光景だ。

奴らの銃の鈍い光が、俺を恐怖へいざなう。

くそっどうなってんだ。

俺は、さっき事故ったんじゃないのか、、、、

なぜ馬車にいて、なぜ追われているんだ。

考えても考えても、答えは出てきそうにない。

ダンッ

銃弾が俺の頬をかすった。

ピリピリと頬が痛む。

気がつかなかった、右から男がこちらに銃口を向けている。

ダニーはすかさず撃ち返すが、なかなか当たらない。

俺はすぐに伏せた。

あぁこれが夢ならさめてほしい。

「おい!手綱をたのむ!」

突然、隣の彼女が言った。

「は!?お、俺は馬車なんて運転したことがねぇぞ」

「なにわけわかんないこと言ってんだ

いいから代われ!」

彼女は無理やり俺と席を変わると手綱を俺に渡し、立ち上がった。

奴は2発ほど撃ってきたが、馬車はかなりゆれている。

銃弾は彼女から大きく外れ、空の彼方に消えていった。

次に奴が引き金を引こうとした瞬間彼女は、銃を引き抜き奴の額に風穴を開けた。

なんと早打ちなのだろうそれに、この揺れのなか正確に当てるとは、、、

だが後ろにはまだ沢山いる。

「おい!ダニー、ダイナマイトだ!」

彼女が後ろの男に言った。

「あいよ!ジェニー!」

大柄なダニーはダイナマイトに火をつけ後方に落とした。

激しく導火線が燃え上がり、爆発音が鼓膜を揺する。

だが、煙の中から一騎現れた。

「くるぞ!左からだ!」

ダニーが叫んだ。

その一騎は勢いよく駆けてくる。

手には、、、ショットガン!?

鋭い発砲音とともに古い馬車のドアが情けなく砕け散る。

ダンッ

また撃ってきたかと思ったが違った。

なぜなら、左の男が力なく馬から落ちたからだ。

ジェニーの方を見ると彼女は、得意げに銃を回してホルスターに収める。

しかし突然彼女は我にかえった。

「おい!前!前!前!」

そう言ったときにはもう遅かった。

建物を避けようとしたが、急な方向転換は間に合わず馬車は横転した。

2.

俺たちは馬車から吹っ飛ばされて、そのまま目の前の建物に逃げ込んだ。

そこは酒場だったのだが、人気が全くない。

いやこの町自体、人がいないのかもしれない。

「ちっダイナマイトは失敗したか」

ジェニーがぼやいたのが聞こえた。

彼女は、窓から外の様子を覗いている。

「ハッハッハッなかなかやばかったな」

ダニーが話しかけてきた。

「はぁなにが起きてるのかいまいちわかんねぇ」

「、、、爆発に巻き込まれたからな、無理もない」

「爆発?」

「あんなに高く、吹っ飛んで生きてるなんざぁとんだ悪運だな」

ダニーはそう言ってまたハッハッハッと笑った。

よくこの状況で笑えるものだな、、、

ドタドタドタッ!

「おい!くるぞ!」

ジェニーが勢いよく飛び込んできた、そして嵐のように銃弾が室内を飛び交う。

酒場にあった机や椅子は原型を失っていった。

30秒くらい経って、嵐が過ぎ去り静まり返った時、

「おい!てめーら今すぐ出てきたら楽に殺してやるよ!だがもし何か口答えしてみろ

てめーらのたま切り取って豚に食わすからな!」と叫ぶ声が聞こえてきた。

それに伴って、外にいる男達は不気味に笑う。

だがジェニーは負けちゃいない。

「たまだぁ?んなもん生まれた時からねぇんだよ!あたしが鉛玉食らう前にてめぇのたまに一発食らわしてやるよ!」

こんな綺麗な顔立ちの女性から、こんな言葉が出るなんて、、、

そうして、ジェニーの挑発は外にいる男を怒らせたらしい。

「女だぁぁあ?

あまり調子にのるなよぉ。

自分の状況がわかってのかぁぁあ?

こっちは7人だぞぉぉ!

必ずぶっころしてやるからなぁ!!

おい装填しろぉぉ!」と男がわめき散らした声が聞こえてきた。

男たちが、装填する音が静かな町に響く。

ジェニーもリボルバーに弾をこめはじめた。

「ダニー何発持ってる?」

「2発」

ダニーは銃を引き抜き弾を取り出し、そのままジェニーに渡した。

「追いかけてきてたのは何人つってた?」

「7人だな、、、足りるか?」

「6発あれば十分さ」

弾を込め、ジェニーはシリンダーを回した。

「ちょっと待て一人で突っ込むのか?」

俺は我慢出来なかった。

ジェニーは少しにやけながら答える。

「おいおい心配してくれるのか?

お前らしくもない」

「当たり前だ!女が一人で銃弾の嵐の中に突っ込むのを黙って見送るなんてできない!」

ジェニーは少し考えている様子だ。

「、、、本当にお前らしくないな。まぁいいさ、ここから黙って見てな」

彼女は銃の装填を完了しカウンターから身を乗り出し外に出た。

「おい!待て!」

俺も身を乗り出そうとした時、ダニーに肩を掴まれた。

彼の方を振り向くと小さく首を振っていた。

3.

「よぉ待たせたな」

ジェニーは右手を小さくあげた。

「あ〜ん?女一人かぁ?野郎共は怖気づいちまったのか?」

男は怪訝な顔をした。

ジェニーは拳銃で帽子のつばをクイッとあげ、

「違うね。あたし一人で十分、ただそれだけさ」とクールに答える。

男の眉毛がピクッと動く。

「とことん、とことん舐めてくれるなぁ、、、、、おい、、、!墓場に花を飾る準備はできたかぁぁあ?」

「あたしにまだ花は似合わないさ」

ジェニーが走り出す。

「撃ち殺せぇ!!!」

男が怒鳴り、激しい音とともに男たちの銃が弾丸を吐き出す。

ジェニーは走る方向を左斜め前にずらした。

当たらなかった弾丸は空っぽの民家に穴を開けていく。

それにしても彼女は足が速い、まるで豹のようだ。

適当な距離まで詰めジェニーは銃弾を放ち、1人目の男を吹っ飛ばした。

すかさず他の男達は銃を撃つが、ジェニーにはうまく当たらない、一人また一人と女豹の餌食になっていく。

本当にすごい腕だ、、、

そういえば馬車の上でも外していなかったな。

「すごいなぁ、、、」

思わず言葉に出てしまった。

「ハッハッハッあいつのギフトは侮れないよな」

ダニーは俺の肩をバシバシっと叩いた。

「いてっいてっやめろよ。てか、ギフトってなんだ?」

ダニーは怪訝な顔をしてこう言った。

「爆発と一緒に記憶も落としたのか?あいつには、動体視力を向上させるギフトが有ったろう。ちなみに俺のはヒールな」

ギフト、、、魔法のようなものなのだろうか。

ていうか、この大男はヒーラーなのか。

「混乱してんだろ、そのうち落ち着く」

そう言ってダニーはケースを懐から取り出しタバコを一本差し出してきた。

「吸うか?」

「いや、いい」

外からは銃声が響いているのにこの男はよく悠々とタバコを吸えるものだ。

しばらくして、銃声は鳴り止んだ。

「おい見ろ大したことない奴らだなぁ」

ダニーは外を見た。

俺も外を覗くと最後に残ったのは、あのやかましかった男だけだった。

その男はなんというかチンピラという言葉が綺麗に当てはまるそんな感じだ。

「おいおい弾切れじゃあないのかぁ?」

男は笑みを浮かべた。

ジェニーは銃口から出る殺しの残り香を吹き消し「お前を倒すのに1発もいらねぇよ」と言った。

それにしても彼の沸点はどうも低いその一言だけで怒ったようだ。

「どういう意味だぁぁぁあ」

彼は銃を引き抜き乱射した。

だがジェニーには全く当たらない。

彼女は銃の向きを変え一気に距離を詰めた。

そしておもっいきり男の頭を殴り、怯んだ瞬間、彼の股間を蹴り上げた。

「、、、ッ?!?!!?!」

彼は声にならない悲鳴をあげて倒れた

痛そうだな、、、

俺は少しだけ彼に同情した。

ジェニーは俺たちの方に振り返り得意げに「男ってのは、弱点がぶら下がってて不憫だな」

4.

ダニーが「追っ手が来るかもしれない、町を出るぞ」

と言ったので俺たちは、男たちの馬に乗り込みすぐに町を出ようとしたが、俺は馬になんて乗れない。

「ブロンドくだらねぇ冗談に付き合ってる暇はねぇんだよ!」

ジェニーにキレられてしまった。

「いや、本当に乗ったことないんだ!」

ジェニーは呆れた顔で手を差し出した、その手を掴むと彼女は後ろへ乗せてくれた。

もうすっかり夕日が荒野を赤く染めている。

俺は、ダニーの隣で考え事をしていた。

「落ち着いたようだな、思い出してきたか?」

ダニーが問いかけてきた。

「落ち着いたよ、記憶もしっかりしてる」

「そいつは良かった」

「それが良くないんだ」

彼は眉をしかめた。

「どういうことだ?」

「その、、俺はこの世界の人間じゃない、つまりだな、、自分の世界から転送されたんじゃないかと思ってる」

俺は自分が今考えていたことをそのまま言った。

「、、何言ってやがんだ。

俺はお前と三年前から仕事してんだぞ」

、、、確かになんだか昔から彼らを知っている感覚がある、

ん?待てよ、、、

彼らは俺のことを知っているのか、、、

なのに俺は彼らのことを知らない、、、

はっ!まさかっ!

「おい!鏡もってるか?」

俺はダニーに尋ねた。

「ジェニーがもってるはずだが」

「ジェニー!鏡を貸してくれ!」

「んぁ?いいぜぇ」

彼女は鏡を取り出し手渡してくれた。

「う、嘘だろ、、、」

そこに写っていたのは金髪の青年だった年は20代後半だろうか、、、

これはおれの顔じゃあない

転生だと思ったが違ったようだ。

しかしいったいどうしてこんなことに、、、

「大丈夫か?」

「いや、、、少しやばいかも」

どうやら俺は事故に遭い、この世界の住人に憑依してしまったらしい。

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