第23話

「あ!

 抜け駆け娘発見!」


 遥ちゃんの声がしたので、そこを見ると遥ちゃんと恋次君がそこにいた。


「遥、ここは、静かに去ろう」


 恋次君が、そう言って遥ちゃんの肩を叩く。


「イ・ヤ・よ!

 こんな面白いネタ見ないでどうするのよ?」


「一の初夜だぞ?

 見て見ないふりをするのが、いいんじゃないか?」


 見てみないふりって見るの?


「そうよ?

 初夜は、大事よ!

 見なきゃ損よ!」


 遥ちゃんの目が楽しそうだ。

 それはそれはとても楽しそうだ。


「とりあえず、部屋を出るぞ?」


 恋次君が、遥ちゃんの手を握る。


「あ、帰らなくていいから!

 今、昼間だから!」


 俺は、慌てて2人を呼び止めた。


「なんだ?

 『一、童貞捨てるってよ?』を経験するんじゃなかったのか?」


「なにそれ?」


 俺は、首を傾げる。


「む?知らないのか?

 なら、構わない。

 気にするな……」


「う、うん」


 あ、でも、どっかで聞いたことのあるフレーズだな……


「そんなことより、2人共どうしたの?

 学校は?」


 清空が、ケロッとした顔で言った。


「あ、それ、俺も思ったんだけど、清空も学校は?

 今、11時前だよ?」


「臨時休校よ。

 どっかの誰かさんが刺されたせいでね」


 遥ちゃんが答える。


「そ、そっか……

 みんなに迷惑かけてしまったな……」


「大丈夫だ、迷惑とか誰も思っていない」


 恋次君が、苦笑いを浮かべる。


「そうよ。

 みんな、学校をサボれると言って喜んでるわよ」


 遥ちゃんが、そう言ってくれるものの俺には、不安なことがひとつあった。


「でも、クラブとかしている人は……」


 俺が、そこまで言いかけると遥ちゃんがニッコリと笑う。


「気にしない!

 一は、被害者なんだから!」


 遥ちゃんは、そう言って俺のおでこをつつく。


「あー!

 なんか、今の恋人っぽい!」


 清空が、変なところで頬を膨らませる。


「恋人って……」


 俺は、口ごもる。


「と言うか、添い寝も恋人っぽいわよ?」


 遥ちゃんが、そう言うと清空が頬を赤らめる。


「そ、そうかな……」


「ああ。

 恋人と言うかもう一は、童貞じゃないみたいだった」


 恋次君が、茶化す。


「いや……

 悲しきかな、俺はまだ童貞だよ」


「それは、残念だな」


「恋次君は、どうなのさ?

 ラブレターとか沢山貰ってるんでしょ?

 その中から女の子を選ばないの?」


 俺が、そう言うと恋次君はため息をつく。


「あのな。

 女の子は生(なま)ものだけど野菜じゃないんだ。

 来てくれた子を適当に選ぶなんて、そんなことは俺には出来ない。

 それに俺には、好きなヤツがいるんだ」


 恋次君は、遥ちゃんの方を見る。


「恋次の好きな人って誰?

 私も興味あるわ」


 遥ちゃんは、意地悪っぽく笑った。


「さぁな。

 でも、そいつにも好きなヤツがいる。

 もちろん、俺以外のヤツだ」


 恋次君は、少し寂しそうな表情で言った。


「でも、恋次君なら大丈夫な気もするけど……」


 俺が、そう言うと恋次君は苦笑いを浮かべる。


「ダメなんだ。

 俺じゃ絶対に勝てない相手なんだ」


 そんな人がいるのか……

 いったいそれは、どんな人なんだろう……

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