第21話
「え?」
「主は、死んではおらん。
ついでに言うが、余が主に与えた恋人とはもう既に出逢っている。
ちなみに、その恋人は、主と恋仲にならなければ地獄行きと言う設定だ。
そして、何を思ったのかその女以外に主と恋仲になりたいと言う女もいる」
「どういう意味ですか?」
「簡単に言いますと一さんは少なくても1人の人から思われていて……
もう1人の人は、かみさまとの契約により一様の恋人になることになっています」
おじいさんが、答えてくれる。
「少なくても2人恋人ができるってことですか?」
俺の問いにかみさまとお爺さんが黙る。
あれ?俺は、おかしなことを言ったかな?
「2人作るか1人作るかは、主の頑張り次第じゃ……」
「そ、そうですか……」
「うむ。
まぁ、主がそんなに器用な生き方はできないだろう。
とりあえず、そろそろ目を覚ませ。
そして、リミットである28歳まで生きろ」
あれ?
さっき、さらりと流したけど俺、28歳で死んじゃうの?
前と同じ歳?
「あの……!」
俺が、質問しようとしたけれどかみさまは、何も答えてはくれなかった。
おじいさんが、優しく「一様、こちらへ……」と言って俺を駅まで案内してくれた。
「ここは、さっきの駅ですか?」
「そうです、ただ行先は貴方が生きていた場所ですが……」
「そ、そうですか……」
「さぁ、電車はすぐに来ますよ。
それに乗っていれば現世へと帰れます」
お爺さんが言った通り、すぐに電車は来た。
俺は、その電車に乗った。
電車の乗り心地は最高だった。
最高すぎて、俺はウトウトと眠ってしまった。
機械音と女の子の声が聞こえる。
「一……
今日はね、リンゴを買ってきたよ。
意識が戻ったら一緒に食べようね」
清空の声だ……
「一、ごめんね。
私、一のことを護るって言ったのに全然護れなくて……
私のせいでこんなことになってホントごめんね……」
清空の声は、涙声。
いや、泣いている。
俺は、ゆっくりと目を開けた。
すると涙でぐちゃぐちゃになった清空の顔が、そこにあった。
「清空……?
どうして泣いているの?」
俺は、小さな声で尋ねた。
体中が痛くて大きな声が出せない。
むしろ体が動かない。
「一、刺されたんだよ?
覚えてない?」
「それは、覚えているけど……」
「いっぱい血が出て手術したんだよ?」
「そっか……」
「うん」
清空が、俺の手を握り締めている。
なんだろう、感覚はないけど温かい気がする。
「私、先生を呼んでくるね!」
清空が、そう言って俺から離れる。
なんか、心が寂しくなる。
なんだろう、清空がかみさまが用意してくれた女の子なのかな?
地獄に落ちたくないから、俺に優しくしてくれたのかな?
そんなことを考えると少し虚しくなった。
与えられた恋人が、地獄に落ちたくないために俺と恋仲になろうとする。
恋人が、出来ないことの方が虚しいのかもしれない。
でも、それでも俺の心の中は何かに満たされていた。
俺が色々考えている間に、清空と一緒にお医者さんと看護師さん、母さんと父さんが俺の病室にやって来た。
「一!貴方って子は、こんな無茶をして!」
母さんが涙を流している。
その母さんの肩を父さんが抱きしめる。
「そうだぞ!
一!今回は、死んでいたのかも知れないんだぞ?」
父さんが、悲しそうな目でそう言った。
「でも、清空を護るにはあれしか方法がなかったんだ……
まさか、ナイフで刺されるとは、思わなかったけど……」
俺が、そう言うと母さんがため息を着く。
「貴方、3日も眠っていたのよ?
清空ちゃんなんて、眠らずに一のそばに居てくれたのよ?」
「清空が……?」
俺は、静かに清空の方を見る。
「私のせいだもん。
これくらい平気だよ」
清空が、小さく笑う。
言われてみれば、清空の顔色がよくない。
目的は何だ?
天国への切符?
それとも、かみさまが言っていたもうひとりの女の子?
このどちらかしか考えれない。
清空が、俺のことを気に掛ける理由がそれ位しか考えれない。
「体は、動かせるかい?」
お医者さんが、俺に尋ねる。
「なんか、動けないです……」
「明日には、動けるようになるさ。
今日1日は、ゆっくり休んだ方がいい」
「はい……
お世話になります」
俺は、小さく笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます