第14話

 帰り道、俺は2人と手をつないで歩く。


「君は、誰とキスをする?

 私それとも……」


 清空が、突然歌いだす。

 すると遥ちゃんも続きを歌う。


「わたしー」


「え?」


 目を丸くさせる俺をよそに2人は、歌の続きを歌う。


「君は誰とキスをする?

 恋の迷子にー純情――」


「何の歌?」


 俺は、2人に尋ねる。


「教えてあげないよーだ」


 清空と遥ちゃんは、嬉しそうに笑うと俺の手を引っ張った。

 両手に花ってこういうことなのかな?

 俺は、ほんの少しだけ心が温まった。

 前世と違い現世は、いい世界だ。

 イジメられることも少ない。

 何故なら俺をイジメるヤツは、清空や恋次君がやっつけてくれた。

 そのうち、遥ちゃんとも親しくなりほかの女子と話すことも多くなった。

 遥ちゃんの凄いところは、男子だけはなく女子からも人気がある。

 遥ちゃんが俺と打ち解けたことで、女子たちの警戒も解けたのだ。

 嫌われた前世と違い周りの環境が違うだけでこんなに違うなんて思ってもみなかった。


「さぁ、どっちとキスしたい?」


 清空が、そう言って俺に体を密着させる。


「私?」


 遥ちゃんも、俺に体を密着させる。

 そして、遥ちゃんがニッコリと笑う。


「一は、私一筋だよね?」


 女の子の笑顔が怖いと知ったのもこの現世でだ。


「テクのない清空ちゃんよりテクのある私の方が、気持ちいいわよ?」


 遥ちゃんが、色っぽい声でそう言うと俺は一つの疑問を投げかける。


「キスにテクなんてあるの?」


「あるわよ?

 それを知りたければ私を選びなさい!」


「えー!

 そんなの選べないよ」


 俺が、そう言うと清空が笑う。


「一は、優柔不断だよねー

 でも、そういうところが好きー」


 清空が、照れもしないで笑う。

 本当に清空は、俺のことを好きなのかな?

 そんな疑問が、浮かぶ。


「ホント、あなた達ラブラブよねぇー」


 遥ちゃんが、嬉しそうな顔をして言う。


「だってね、だってねー。

 一は、私の運命の人なんだもん!」


 恥ずかしがる仕草もせず清空は、大きな声で言った。


「あら?

 でも、それじゃ、一にとって清空ちゃんは運命の人じゃないかも知れないわよ?」


「えー。

 一、そうなの?」


「そんなの知らないよ」


「うー。

 どうすれば、私は一の運命の人になれるのかな?」


 清空が、遥ちゃんに尋ねる。


「それは、女を磨くことね!」


「女を磨く?」


「そう、デートの時はお化粧したり、無駄なものを食べなかったり……

 適度な運動をして、いつでもセックスしていいようにかわいい下着をつける!」


「……セックス」


 清空の顔が、赤くなる。


「その照れる初な表情……たまらないわね。

 そのトキメキを収めるために一の部屋の調査が必要ね」


 遥ちゃんが、とんでもないことをさらり言う。


「清空はともかく、遥ちゃんは俺の部屋なんか調べて何が楽しいの?」


「あら、気付かない?

 私も一の運命の人になりたいからよ?」


「えー!!」


 俺は、思わず声をあげてしまった。


「一、気づかなかったの?」


 清空が、当たり前の顔をして言う。


「清空は気付いていたの?」


「うん」


「えぇー。

 だって、遥ちゃん彼氏がいるじゃん?」


「それは、一が私に振り向いてくれるまでの繋ぎよ」


「それって、彼氏さんに失礼じゃない?」


「そう?

 いまどき、好き同士で付き合う方が、珍しいわよ。

 一方が好きで告白して、別に嫌いじゃないのならOKしてるだけよ。

 生理的に無理な人は、付き合わないわ」


「そっか……」


 まぁ、それが遥ちゃんの人生だし俺は何も言えないよな……

 俺は、それ以上聞かないことにした。


「まぁ、そんなことよりも一の部屋へゴー!」


 遥ちゃんは、俺の手を引っ張って走り出す。

 俺も走る。つられて清空も走る。

 走って走って走った先。

 それは、俺の家だった。

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