第5話

「もっと欲を出してもいいのでございますよ?」


 お爺さんが、そう言って笑う。


「で、では……

 恋人が欲しいです。

 普通の恋愛をしてみたい」


 俺は、思い切って言ってみた。


「ほう……

 これは、思い切ったな。

 主は、輪廻転生未来永劫独り身の運命。

 それを覆したいと言うのだな?」


「は、はい……」


 俺って、そこまで独り身と言う運命の名のもとに生まれていたのか……


「まぁ、よかろう。

 来世では、恋人を与えてやろう。

 運命の恋人と言うヤツだ。

 折角だから記憶もそのままで、もう一回人生を楽しむがよい!」


 かみさまは、そう言って俺に向けて指をさす。

 俺の体に電撃が走る。


「では、新しい人生をお楽しみください」


 お爺さんの声が耳に入る。


「ついでに赤い糸を……」


 かみさまが、何かを言ったけど俺の耳には入ってこなかった。

 赤い糸がなんだ??

 気になるまま俺は、温かい何かに体が包まれる。


 ドクン。ドクン。ドクン。

 心地良い音。

 心地良い香り。

 心地良い温もり。

 俺は、目は見えない。

 俺は、その空間に長い間居た。

 何度か目を覚ましては、眠り……

 起きては、眠りの繰り返し……

 そして、その世界が終わる時が来た……

 そう、俺は産まれるのだ。

 そっか、産まれるってこんな感じなのか……


 暖かい感触から一気に落とされる。

 この感覚は、エレベーターを降りる感触に似ている。

 なんか、気持ち悪い……

 俺は、その気持ち悪さから思わず大きな声を出してしまう。

 すると女の人の声が聞こえる。


「おめでとうございます。

 元気な男の子ですよ」


 姿は、まだ見えない。

 視界がぼやけている。

 そうか……

 俺は、産まれたのか。

 身体が軽いようで自由がきかない。

 赤ん坊って不便なんだな……

 とりあえず、泣くのはを止めようか。

 泣くのも結構体力を使う。

 俺は静かにすることにした。

 心地良い香りがする。

 そうか、これが母親の匂いなんだな。

 覚えておこう。


「産まれてきてありがとう」


 母さんが、そう言って俺の頭を撫でる。

 それが、心地いい。

 思わず顔がにやけてしまう。


「あ……赤ちゃん。

 笑ってる……」


 母親とは違う女の人の声が、俺の耳に入る。

 この声は、もしかして産婦さんかな?

 顔が、見えないので情報が収集できない。

 確か、3カ月くらいは、視力が無いんだっけ??

 全く見えないわけじゃないけれど……

 今、わかるのは、この部屋がまぶしいってことだけだ……

 そして、俺は母さんのミルクを沢山飲んで、大きくなった。

 俺が、産まれてから4年が経った。


「一、今日から幼稚園よ」


「幼稚園?」


 あぁ、もうそんな時期か……

 ここから団体生活が、始まるんだな……

 苦手なんだよね、団体生活って……


「そう、幼稚園!

 お友達沢山出来るといいわね!」


「……うん」


 友達か……

 前の人生では、友達!と言える友達は、出来なかった。


清空きよらちゃんも一緒なのよ?

 きっと他にもいっぱい友達が出来るわ」


「……うん」


 清空ちゃんと言うのは、俺の幼馴染。

 今も幼いけどたぶん、幼馴染になるんだと思う。

 かみさまが、用意してくれた女の子なのかな?

 でも、あの子は少し乱暴者なんだ。

 顔は可愛いんだけどなぁー

 俺は、ため息を着くと母さんに手を引かれ幼稚園に向かった。

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