第3話

 ゆらゆらと揺れるこの感触が気持ちいい。

 目を開けると俺は、電車の中にいた。

 あぁ、夢だったのか……

 俺は、そう思い安心した。

 電車が踏切を横断する時の音が聞こえる。

 俺は、その音にもう一度安心したもののふと不安がよぎる。

 ここは、どこの駅だろう?

 俺は、外を見た。

 外は知らない景色。

 やばい、乗り過ごした?

 会社に遅れる。

 俺は、電車の出入り口に向かう。

 早く降りて乗り換えなくては……

 焦る俺に合わせるかのように電車のアナウンスが響く。


「次は、煉獄れんごくー煉獄。

 お降りの方は――」


 煉獄?煉獄ってなんだ?

 俺は、とりあえずここで降りよう。

 そしてふと思う。

 切符が無い。

 俺は、駅員さんを探した。

 でも、見つからない。

 だから、改札口で謝ることにした。

 改札口に向かうと、若い女の人が立っていた。

 綺麗な人だ……

 女の人は、俺の方を冷たい目で見る。

 俺は、固まる。

 女の人は、ツンとした表情でため息を着いた後、改札口を飛び越え出ていった。

 今、切符を改札口に入れてなかったよな?

 改札口にも駅員さんはいないようだ……

 俺は、駅員さんを探した。

 1時間ほど探したけど見つからない。

 会社に連絡しようと思ったけれどスマホは圏外マーク。

 連絡方法はない……

 困ったな……

 俺は、ため息を着く。

 すると後ろから声をかけられる。

 お爺さんの声だった。


「こんにちは」


「こ、こんにちは」


 お爺さんは、俺の顔を見た後ニッコリと笑う。


「斎藤 一様ですね?」


「あ、はい……」


「私、煉獄教会のモノです」


「煉獄??」


 煉獄?

 確か天国には行けないかと言って特に悪いことをしてはいない人が行くところだったような。


「そうです。

 その煉獄です」


 お爺さんは、そう言うと再び笑う。


「って、俺もしかして……」


「はい、一様は、お亡くなりになりました」


 その言葉を聞いた瞬間、俺の頭の中は真っ白になった。


「じゃ、ここは天国?それとも地獄?」


 俺は、目眩を押さえながらお爺さんに尋ねた。


「いいえ、ここは天国でも地獄でもありません」


「じゃ、ここは……?」


「先ほども言いましたが、煉獄でございます」


「煉獄……

 天国への行く資格もなく、地獄へ行く罪も行っていない方が来る場所でございます」


「そうですか……」


 俺は死んだというのに関わらず比較的冷静を保っていられた。

 それは、恐らく死と言うモノはもっと恐ろしいものだと思っていたからだろう。

 でも死後の世界は、現実世界とあまり変わらない……

 それが、恐怖と言うモノを無くしたというのもあるかも知れない。


「では、早速でございますが、かみさまがお待ちです」


「かみさま?」


「はい。

 かみさまでございます。

 一様には、かみさまからお話があるそうなのでついてきてください」


「でも、俺……

 切符が……」


「切符でございますか?」


「はい」


「大丈夫でございます」


「え?」


「この電車には切符は、存在しませんから……」


「そうなのですか……」


 俺は、少し安心した。

 そしたら、さっきの女の子も煉獄暮らしなのかな?


「では、行きましょうか……」


 俺は、お爺さんに案内されるまま静かに駅の改札口を降りると外の世界では、都会の街並みが広がっていた。


「えっと……

 ここ本当に煉獄なのですか?

 俺の住んでいた街とそんなに景色が変わらないのですが……」


「煉獄に来た方は、みんな同じことをおっしゃります。

 ここに来た時、誰もが驚かないようにそれぞれの煉獄が用意されています。

 一様は、平々凡々な人生を送ってきたので、こんな感じでございます」


「そ、そうですか……」


 煉獄、意外と住みやすいのかもしれない。

 でも、仕事とか探さなくちゃな……

 仕事を探さなくちゃ食べれないってのは、現実世界も煉獄も同じなのかと思った。

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