第2話

 俺の名前は、斎藤 一。

 新選組が好きな祖父が、俺に名前を付けた。

 俺は、中々気に入っている。

 だけど俺は、この名前にふさわしい男じゃない。

 誰よりも弱く。

 誰よりも愚かで。

 誰よりも情けない。

 そのせいか、小さいころから女子にはバカにされ……

 イジメられてきた。

 だから、女子にはちょっとトラウマがあり、28年間生きてきた中で、彼女と言うモノが出来たためしはない。

 仕事に行っては帰って……

 家に帰っては眠る。

 そんな人生を俺は送ってきた。

 これからも、そんな人生なんだろう……

 つまらないよな。

 俺の人生。

 虚しいよな俺の人生。

 そんなことを思いながら、いつものように会社に向かう。

 いつもの通勤場所。

 いつもの光景。

 いつもの空気。

 新鮮なことなんてひとつもない。

 そんな中、暴れまわる男がいた。

 ナイフを持っているようだ。

 人を次から次へと刺しては、ナイフを赤く染め、歓喜の声をあげている。

 子供も女の子も老人も無差別に刺したり斬ったりそいつのまわりは血の海となっていた。

 何が起きているのかわからない。

 男の近くで、女の人が腰を抜かして悲鳴を上げている。

 助けなくちゃ……

 俺は、走って男に体当たりした。


「ターゲットローック!」


 男は、俺の方を見ると狂喜に満ちた顔を浮かべる。

 恐ろしい。

 初めて向けられる殺気に俺の脚が震える。


「逃げて……」


 俺は、女の子に声をかける。


「え?」


 女の子の目が丸くなる。


「逃げて!!」


 俺は、叫んだ。


「こ、腰が抜けて動けません!」


 女の子が泣きながら叫んだ。

 少し怖いけど、戦うか……

 俺は、構えた。


「お前も殺ーす。

 俺に逆らうやつは、全員死刑だ!

 俺に逆らうヤツは、全員生きる価値なーし!」


 男はそう叫びながらナイフを振り回す。

 それを俺は、何とか避ける。

 腕の動きを見れば何とかなる。

 特にスポーツをしていたわけじゃないけれど……

 いじめられっ子拳法を極めた俺には、そのナイフの軌道を読むことなど余裕だ。

 1対1、1対複数、武器を持った相手との喧嘩なら慣れている。

 俺は、素早くそのナイフを避け続けた。

 そして、男の腕が完全に伸びたところを掴み、そして一本背負い。

 男が、もがく。


「大丈夫?」


 俺は、笑顔で女の子の方に振り向く。


「あ、はい……」


 女の子の顔が赤らむ。

 俺は、一瞬この女の子が可愛く見えた。


「立てる?」


 俺は、手を差し伸べた。

 と、それと同時に背中に激痛が走る。

 そして、じんわりと背中が温かくなる。

 息も出来ない。

 苦しい。

 俺は、その場に倒れた。


「お兄さん?」


 女の子が、ゆっくりと俺の体を揺らす。


「バーカ!

 俺様に逆らうからだ」


 薄れゆく意識の中……

 男の声が耳に届き、女の子の悲鳴を最後に俺の意識は消えていった。

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