救えない青と降り続ける羽
『幸せの青い鳥』
見た者を幸せにしたりすると言われている。
『幸せの青い鳥』
幸せを運んでくれると言われている。
『宝石の鳥人間』
青い鳥とよく似ていて、見た者を不幸にすると言われている。
※
「そっちに行ったぞ! 捕まえろ」
とある森の中、『野鳥の楽園』と呼ばれるその場所に飛び交う怒号。
「おら。金だ、金が飛んでるぞ」
緑に囲まれたその森で白い煙がいくつも立ち上り、火薬の匂いが立ち込める。
たが、そんなのお構い無しに銃を乱射する男たち。
「ほらほらほら。これは全部いい金になるんだ。残すなんて事はすんなよ、勿体ねぇ」
その男たちに指示を出す、金銀財宝はもちろん、ダイヤモンドなどの宝石をジャラジャラと身に付けている男がいる。
世界に名高い犯罪組織のリーダーにして、名を
そんな、仲間たちが次々と捕まっていく様子を怯えながら見ている青い鳥。
幸せを運んでくれる青い鳥は今、幸せを、幸せという名の日常を奪われている最中だ。
『なんでこんな事に』
そう思う事しか出来ない。
捕まる理由も無いし、悪さだってしていないはずだ。
それに青い鳥は知らない。
人間にとっては幸せの象徴だなんて事を。
「よーし。あらかた捕まえられただろう」
斗悟が仲間たちに声をかえて撤退の準備を進める。
青い鳥はマフィアからしてみると「ただ」のいい資金源でしかない。
『あれ、帰るのかな? これで終わりだよね? 僕は無事なんだよね?』
と、青い鳥は片付け始めた悪党を見るためだけに隠れていた草むらから出てくる。
それが間違った行動で誉められた行動じゃないことは一目瞭然だ。
ただ、この時の青い鳥は家族が捕まっていないか心配で、仲間が無事かどうか心配というその気持ちだけで動いてしまった。
「おっ! さっきの奴らよりも上もんじゃねぇか」
斗悟は草むらから出てきた1羽の青い鳥。
羽は透き通るような色をしていて、本当に幸せを運んでくるのではないか、と思うほど輝いて見えた。
そして、
「俺の宝石よりも輝いてやがるのか」
斗悟は網を手に持ち近づいてくるのを待つ。
少しずつ、少しずつ人間に、斗悟に近づいてくる青い鳥。
そして、
「よーし、コイツは俺の宝石にしよう」
『やめろ、離せ。なんだよこれ。絡ま、るな!』
「チッ。ピヨピヨ喚くだけの煩い鳥め」
斗悟の手のひらに収まる青い鳥は麻酔を射たれ意識を手放した。
※
気がつくと青い鳥は知らない場所にいた。
あの、居心地がよかった森じゃないことは確かだ。
それと、よくわからないキラキラに閉じ込められている。
『なんで、なんで! 僕が、僕たちが何をしたって言うんだ!』
ピヨピヨと鳴く青い鳥に起こされた斗悟。
「おっ、やっと起きたのか。どうだ? この金で出来た鳥籠は。恨めしいほどに透き通る綺麗な青い羽、そしてなにもかもを見透かしそうな気持ち悪い目....そうだ。俺の鳥になったんだからプレゼントをやろう」
斗悟は青い鳥を手づかみで鳥籠から出す。
そして机の引き出しからナイフ、それといくつかの宝石を机に置き、
「これは俺からのプレゼントだ」
『や、やめろ。なにを』
青い鳥の必死の抵抗は無意味に、両の目ん玉をナイフでほじくり出される。
『やぁあまあばぁぁ、痛い痛い痛い痛い痛い』
「ピヨピヨ煩いな。暴れると無駄に怪我をするぞ」
『痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い』
青い鳥の必死の抵抗は虚しく目ん玉はほじくり出されて視界が真っ黒に染まる。
それ以上に生きている事が辛くなるほどの苦痛と、体内を風がすぎるような気持ち悪さを青い鳥を襲う。
「さて、これがプレゼントだよ」
斗悟は青い鳥を愛でながら宝石を青い鳥の目に嵌め込んでいく。
無理矢理ではなく、無駄にきちんと目に合う大きさの宝石を。
「よーし、これで終わりだ! うん。俺が持つに最高な宝石に仕上がった」
斗悟は青い鳥の出来に満足したのか鳥籠に戻してから布団に入り眠りにつく。
『痛い痛い痛い痛い。なんで、なんで、なんで、なんで!』
意味がわからないのと、苦痛との板挟みに青い鳥はどうすることも出来ずにただただその場から動かない。
否、動けない。
目が見えない状態で無駄に動いても怪我をするだけだと本能的にわかっているんだろう。
その、夜の月は煩いくらいに、斗悟の宝石がただの石に思えるくらい不自然に輝いていた。
『可哀想な鳥』
憐れみを含む男とも女ともとれない声。
青い鳥の耳に届くどこからか聞こえてくる優しい声。
『憎しみが溢れている』
またも憐れみを含む声が青い鳥の耳に届く。
『だれ、ですか?』
聞いてみるもなに1つ返事がない。
『そうだ! 秘密だよ』
不思議な声は『秘密だよ』と言ってから気配を、姿を消した。
『なんだったんだ、今の?』
青い鳥には意味がわからない。
わからないまま時間だけが過ぎていく。
時間だけが過ぎていき、青い鳥には気がつかないが夜が明ける。
太陽が、嫌と言うほど輝かしい太陽が昇る。
すると青い鳥は声をかけられる。
「どうだ、青い鳥。調子は?」
人が喋っている。
しかも意味がきちんと理解できる。
理解できるけど、言ってる意味がわからない。
「調子は?」って、
『めちゃくちゃ痛いに決まってる』
そう「声」を出す。
「声」を。
「喋った、のか? いやいやいや、気のせいだよな。流石に鳥が喋る訳ないし、疲れてるのかもな、まだ眠いし」
斗悟は何故か昨日の疲れが取れなかったようでまた布団に入るとすぐに眠りについた。
『通じてた? でもなんで? どうして?』
青い鳥には意味がわからない。
なんで人間の話している事がわかるのか。
そして相手が言っている事が理解できるのか。
『憐れな鳥だね』
『えっ』
不意に話しかけられた。
暖かな声、包み込むような暖かな....いや暑い!
『ごめん、ちょっと暑いかな?』
いやいやいや、ちょっとどころではない。
かなりの暑さだ。
いや、熱さだ。
『それは
その言葉を最後に熱さは消えて、気がつくと僕は、
「僕は、人間になったのか」
頭では理解できている。
理解できているが理解できない。
「それと目が見える」
嫌と言うほどキラキラと輝いて見える世界。
僕がいたであろう鳥籠1つとってもそうだ。
「この力をどのように使うかは自由だから、か」
僕は今、不幸のドン底にいるのか、幸福の最高点にいるのか。
いや、どう考えてもドン底だ。
仲間も心配だし、どうにかして助けないと。
青い鳥は必死に必死に考える。
考えて、考えて頭を回転させる。
「あっ」
ふと、ある物に目がつき、人間たちが森に来た時の事を思い出した。
その青い鳥が目にしたのは銃。
僕たちを簡単に捕まえる事が、僕たちを簡単に殺すことの出来る銃。
「これで殺せるかはわからないけど」
壁に立て掛けてあった銃を手に取り、記憶を頼りに眠っている自称『飼い主』に銃口を向けて引き金を引く。
――――ドーンッ
とても大きな音が辺りに響いて人間から赤黒い血がドロドロと流れだす。
それと、少し悶えていた、かと思うと動かなくなり、
「死んだ、のか?」
記憶を頼りにリロードしてからもう1発。
――――バーンッ
次は完全に動かなくなり、この人間は生きていない、ということがわかった。
これで次に進む事が出来る。
仲間を助けるという目的が。
青い鳥は人の姿のまま銃を持ち部屋を出る。
そのまま適当にブラブラ。
人間を見つけると、
――――バーンッ
人間が何人来てもお構い無しに、
――――バーンッ バーンッ
そして青い鳥が、仲間たちが捕まっている檻を発見した。
食事が用意されていないのかあまり元気な様子がない。
グッタリとして動かないのだから。
青い鳥は檻を開けて、
『みんな、迎えに来たよ。早く逃げて』
そう鳴くが誰1羽として答えてくれないし、動く気配すらない。
それが意味するのは1つ。
「死んでいる。僕たちは平和に暮らしていただけだ。なにも悪い事をしてないのに、何も迷惑をかけてないのに。こんな世界なら壊れてしまえばいい」
これはとある『雨のフル本屋』に届いた1冊のお話だ。
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