救えない熱と降り続ける涙


 1年で1度女の子が勇気をだす日。


 バレンタインデー。


 俺からしてみれば最悪以外の何物でもないんだ。


 チョコを貰える人はいいよな。


 俺にもチョコをくれる人がいたんだよ。

 あれは小学5年生の頃だった。



 その日、学校ではチョコを貰えなかった。


「まぁ、いいですよ。どーせ俺はモテない死ね」


 と弟に愚痴を言う。

 てか、なんで弟は貰えてる訳?

 意味がわからない。



 そのままグチグチと愚痴を吐き続けていると18:00を回った。


 ――――ピーンポーン


 家のチャイムが鳴る。

 どうせ弟の客だろうと思いながら出ると、そこにいたのは幼馴染みのアカリだった。


「これ」

「う、うん。ありがと」


 とても美味しそうなチョコカップケーキ。

 その時の俺は思った。

 マンションなのだが誰かいる、と。

 けど態々確認するのもあれなので聞くだけ聞く。


「誰かいる?」

「えっ、いないよ」

「そっか」


 そんな、続かない会話が続く。

 他愛ない話、とはいかない。

 とてもぎこちなく、居心地が悪い。


「あの」


 アカリは意を決した様子になる。


「ずっと好きでした。付き合ってください」


 そう言ってきた。

 意味は理解出来る。

 理解出来るけど、脳が追い付いてない。

 いや、少しずつ追い付いてくる、追い付いてきた。


「えっと」


 この時の俺はチョコは貰いたいとは思うけど、好きな子がいた訳でも無かった。

 が、今思うと、他にも断り方があったと思う。


「今、好きな人がいるから、その....ごめん」

「う、ううん。その、聞いてくれてありがとう」


 それだけ言い残して、行ってしまった。


 後で聞いた話、あの時は近くにアカリの友達がいて、見ていたそうだ。

 そして、涙を流していた、という事も。



 今思うと、後悔してると言ってもいい。

 アカリは引っ越した。

 何も言わずに引っ越してしまった。

 いなくなってから大切な存在だとわかった。

 いなくなってから大事な存在だと知った。

 

 いなくなってから始めてアカリの事が好きだと気づいた。



 だから俺は、今年のバレンタインデーもチョコカップケーキを作る。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る