第5話

 魔法学院はその名の通り、魔法について学ぶ学院だ。

 前世で言う所の義務教育は貴族であれば自宅学習が基本の為、授業内容もほとんどが魔法に関してのみ。

 入学資格は貴族と、魔法の素養のある平民に与えられる。魔法の素養というのは遺伝性なのか、貴族は皆大なり小なり魔法を扱えるそうだ。

 だから魔力に目覚めていない(という事になっている)私も貴族というだけで入学資格がある。

 今年から平民にも門が開かれているけれど、平民からの入学者は片手で数えられる程。

 その理由は貴族以外に魔法の素養を持つ者が少ないだけでなく、前提として求められる魔法以外の学力を持つ者がそれだけ少ないからだ。

 平民の識字率は近年急上昇しているそうだが、入学試験では読み書き以外にも、貴族であれば当然の礼儀作法、テーブルマナーや社交ダンスといった平民には無縁の項目も多く含まれている。

 魔法を扱う素養、魔力を感じる素質は必須条件。しかし魔法の実力に関しては加点対象であっても減点対象ではない。学院に入学するに相応しいか、重要視されるのはその他の部分。

 先んじて貴族となって入学資格を得ていたフェリアでさえ、私の家に泊まり込んで猛勉強して合格を掴み取ったのだ。国王様から学院が平民も受け入れると報じられてから一年足らずでそれらを完璧にマスターできる平民なんてほとんどいない。

 貴族の誰もが平民が学院の塀を跨ぐことはないと思っていたのだから、数人とはいえ初年から平民の入学者が出ただけで驚いたはずだ。……だからこそ昨日の食堂での陰口なんだろうけど。

 そして苦労して狭き門を潜っても、今度は魔法に関する高等教育。

 専属の家庭教師を雇える平民なんてそうはいない。そうでなくともほとんどがフェリアのように偶発的に魔力に目覚めた者しかいないのだから。

 入学試験に合格した後もフェリアは私と共に魔法の勉強を重ねた。成り上がり貴族と揶揄されてもそれを跳ね除ける為、原作では魔法の使えない私を守る為だったとも語られている。本人に確かめたわけじゃないけど、それは今の私も感じている。

 原作のレイラは共通ルート終盤まで魔法を扱えなかったけど、実技以外の成績は学年トップクラス。まあそれが原因でまたセシルリアに絡まれたりもするんだけど……。

 私も原作をなぞろうとしたわけでもなく、純粋に魔法に憧れたから魔法についての知識は人並み以上についている。

 少なくとも一年生程度の授業で後れは取らない。治癒魔法しか練習して来なかったから原作通りそれ以外の魔法は使えないんだけど。


「えいっ! はいっ! そいっ! ほいっ! へーいっ!」


 よって記念すべき最初の実習授業は開始五分で杖の素振り筋力トレーニングに決まった。

 治癒魔法は使えるのにどうして他の魔法は使えないんだろうか。


「んー……はっ!」


 振れども振れどもうんともすんとも言わず。

 治癒魔法は目覚めてすぐに杖なしでも使えるようになったのに。

 この世界の魔法の行使に必要なのは精霊への呼びかけだと言われている。

 その呼びかけに使われるのが呪文と杖。ただし杖は初心者の補助用で、余程の大魔法でもなければ杖を使う貴族はいない。

 王国騎士団では杖と同じような精霊の加護を受けた剣を使うけど、それは例外。

 今はそよ風や小さな火を灯そうとしているだけだから唱える必要はないが、一番重要なのは精霊を呼び、語り掛ける呪文だそうだ。杖は言うなれば指揮棒みたいなものらしい。精霊さーん、この杖止まれー。うん、発動しない。

 素振り組に振り分けられた貴族は私だけだ。他の貴族から向けられる視線は特に痛くも痒くもないけどね!

 フェリアだけは時折心配そうに振り向いてくるけど、笑顔で手を振って返す。原作のレイラは多少は魔法が使えない事をコンプレックスに感じていた描写がされていたけれど、今の私にはそんなコンプレックスはまるでない。

 原作崩壊してるから治癒魔法を隠す必要もないのかもしれないけど、ここまで隠してきたんだし、どうせならここぞという見せ場で披露したいなー、なんて不謹慎だけど。

 でも誰も怪我をしていない状態じゃ治癒魔法に目覚めた事に気付くのもおかしな話。誰かが転んだりでもしたらそのタイミングで明かそうっと。フェリアの気を揉ませるのも申し訳ないしね。

 さて、それはそれとして。


「あなた、魔法使えますよね?」

「貴族様にも使えない魔法を平民が使えるわけないじゃないですか」

「とりあえずその敬語やめてください。ここなら他の貴族には聞こえませんし、本当鳥肌立つので」


 なぜか練習場の隅に集められている私たちに混ざっているセシル。

 本当に魔法を使えないのかとも思ったが、その態度から見て手を抜いているのは間違いなさそうだ。それに手に持ったやけに大きい杖がわざとらしい。

 この学院では杖を使う事を馬鹿にされるかもしれないけど、他のファンタジー作品も知ってる私から見れば、明らかに大魔導士とか、それこそ魔女が使う杖にしか見えない。


「あんたの知ってるセシルリアは魔法が使えたのか」

「一応、アルベルト様に劣らないぐらいの魔法の才能がある、って設定でした。その設定が活躍する場面はありませんでしたけど」


 基本嫌がらせにしか使ってなかったしなあ。他は実技試験の後に成績で皮肉を言われるのと、肉体を奪ったグリムニルが才能を持ちながら嫉妬するしか出来なかったセシルリアを嘲るくらいだろうか。


「当てにならない物差しだな」

「仕方ないじゃないですか。戦闘とかそういう要素のないゲームだったんですから」

「そういうもんかね」


 興味があるのかないのか、自分から訊いてきたのにセシルは無表情で杖で地面をつついていた。

 その様子は本当に私の知るセシルリアとも、グリムニルとも大違いだ。


「気絶させられた相手に随分と無警戒なんだな」


 一緒になったのだから色々と尋ねたい事もあったが、授業中なので大人しく隣でうんともすんとも言わない杖を振り続けていると、少し呆れたようにセシルが言った。


「骨も折られそうになりました」

「……だったら、なんで」


 私が平和ボケした現代人の記憶を持っているから。原作でも少し危機感に欠けていたレイラだから。そのどちらかか、それとも両方か。

 セシルを怖いという気持ちがないわけじゃないんだけど、その恐怖はなんていうか、ホラー映画や絶叫マシンに対する怖さに近い気がする。

 そして私はそのどちらも怖いけど、好きだ。


「私をどうこうするつもりなら昨日の時点でされてますし、とりあえずは安全かなって」


 セシルにそんなことを言っても伝わらないので、それらしい理由をつけておく。

 それに元々は原作とは違い、セシルリアと仲良くしていこうとしていたんだ。平民のセシルじゃコネ作りにはならないけど、大した問題じゃない。


「物好きだな、レイラ様は」

「レイラ様って言うのも本当やめてください、マジで」

「それで、あんたは魔法が使えないのか?」


 名前で呼んでくれないところは原作通りなのね……。セシルリアは「貴女」かフルネーム、もしくはレパートリーに富んだ蔑称で呼んでいたけど。


「ええ、まあ。もう治癒魔法は使えるんですけど、それは秘密にしてるので」

「なんでわざわざ。明かせば他の貴族に馬鹿にされる事もなくなるだろうに」

「原作を途中までなぞる気でいたので、それに合わせて本来なら使えないはずの治癒魔法も隠してたんです。今はもう無理に原作通りに進めるつもりもないので、タイミングを見て明かします。あ、だからセシルも安心して怪我していいですよ! 元々セシルリアを助けるために先取りした魔法なんですから!」


 原作を知っていてセシルリアを見殺しにするつもりだったとは思われたくないので、最後にそう付け加えておく。

 でも原作の未来に心当たりがあるって言っていた割に、自分が死ぬ未来にも大した反応を示さなかったから、やっぱりだけどセシルリアがセシルになったのには『不老不屈の魔女』グリムニルが関係しているんだと思う。

 それに五年前にあったっていうも事故にもグリムニルが関係しているのか、それとも事故というのがグリムニルが関係している何かを隠すための嘘なのかは分からない。


「……治癒魔法は万能じゃない。死人を生き返らせられるわけでもないし、痕として残った古傷や心の傷までは治せない。過信しすぎると大切なものを取りこぼすよ」

「勿論、分かってます! でも、誰かを助けられるかもしれない魔法ですから」


 原作のレイラがセシルリアを助けられなかったように。分かってるつもりだけど、それでもそんな未来を変えたいから私は必死に練習した。

 ……うん。コネ作りとか、アル×セシ応援し隊とか、色々と理由をつけてはいるけれど、私は結局、死ぬと分かっているセシルリアを見殺しにしたくなくて治癒魔法を身に着けたんだ。

 私に残っている前世の最期の記憶は消毒液の香り。真っ白な部屋のベッドの上で、ゆっくりと暗闇に落ちて行った。

 痛みなんて感じなかったけど、熱が外に出て行って、体がどんどん冷たくなっていくあの感覚だけは覚えてる。

 あんな思いを一方的とはいえ知っているセシルリアにしてほしくない、ってそう思ったから。……なーんて恥ずかしくて人には言えないので、こればかりは今世の墓まで持っていきますけどね!

 さて、気を取り直して相変わらず手持ち無沙汰に杖を遊ばせているセシルに、真面目に授業を受けるつもりがないのなら、とグリムニルとについて尋ねてみる事にした。


「答える義理はないな」


 が、案の定と言うべきか、昨日と同じで答えてはくれなかった。ひどい。


「私は色々話してるのに!」

「昨日は骨を折る代わりに、今日は脅してもないのにあんたが勝手に話しただけだ」

「それはそうですけどぉ……分かりました。別にいいですよーだ」


 ふんだ。予定通り、アルベルト様に尋ねてみよう。

 セシルは何故かは分からないけどアルベルト様の事を嫌っているみたいだから、本人には内緒にしておく。


「アルベルトに訊くのは勝手だけど、あんたの持ってる知識について悟られないように気をつけろ」

「うわっ、バレてる!」

「分かりやすいんだよ、あんたは」

「あはは……でも止めないんですか? 昨日も口止めはしませんでしたよね」


 そんなに分かりやすいかなぁ……確かに今のはわざとらしかったかもしれないけど。


「別に。あんたが何をしようと私には関係ない。知識の出所が分かった以上、警戒する必要もなくなった。それにどうせあたしとセシルリアを結び付けられる奴はいない」

「警戒してないなら普通に答えてくれてもいいじゃないですか」

「誰かとつるむ気はない」

「ケチ!」


 頬を膨らませて不満をアピールしてもセシルの無表情は揺るがない。

 原作のセシルリアもレイラにはツン100%だったけど、このセシルもデレる様子が想像できないな。


「それとあいつなら昨日からいないよ」

「えっ、入学式で話してましたよね?」

「王子様は何かとお忙しいらしい」


 明らかに皮肉と分かる口調で話すセシルだけど、どうしてそんなにアルベルト様を嫌うんだろう。

 原作のセシルリアは幼い頃にアルベルト様に一目惚れした、って設定だけはキャラ紹介に載っていたけど、具体的なエピソードは描かれていなかった。

 幼い頃が具体的に何歳頃かもわからないけど、原作にはなかったはずの五年前の以前から原作とは違う関係性だったのだろうか?


「……あんたが何をしようと自由だ。けど、誰にもこの呪いは解けないよ」


 目を背けたまま、どこか諦めたようにそう言い残してセシルは踵を返して歩いて行った。

 いつの間にか実習が終わっていたらしい。リリエット先生が生徒たちを集めている。

 最後の言葉はどういう意味だろう。ただのたとえか、それとも本当に……?

 追いかけるべきか少しだけ迷って、それでもあれ以上は何も答えてはくれなさそうで、結局、私はセシルとは反対、練習場の中心へ向かった。




 ◇◆◇◆




 翌日、私は生徒会室前に来ていた。

 あのセシルがアルベルト様をお茶会なんてものに誘うとは思えない。ならば二年生にして生徒会長を務めるアルベルト様にお会いできる確率が一番高いのは此処。ということでお昼休みにご飯を食堂でさっさと済ませてやってきた。

 原作ではアルベルト様と二人きりで生徒会室でお昼を食べるイベントもあり、逆に食堂でアルベルト様とのイベントやエンカウントが発生する事はなかった。だからきっとお昼も生徒会室で摂っているはず。


「一年のレイラ・モンテグロンドです」


 ノックの後、緊張しながら名前を告げる。

 アルベルト様がいるかもしれないというのも勿論だけど、昔からこういう学校内の特別な場所に近づくのは緊張する。別に悪い事をしてるわけじゃないんだけど。


「入れ」


 扉の向こうから聞こえてきたのはアルベルト様の物ではない、しかし前世で聞きなれた声だった。


「失礼します」


 生徒会室にあった人影は一人だけ。

 入って正面に設けられた生徒会長の席は空いている。

 唯一、会計の席だけが埋まっていた。そこに座っていたのは藍色の髪をした偉丈夫。


「一年生が何の用だ?」

「お忙しい所、申し訳ありません」


 机の上に並べられていた書類を整理しながら、彼は憮然とした様子で私を見た。

 不機嫌そうに見えるけれど、彼はこれがデフォルト。怯むな、私っ。


「構わない」


 彼はアデル・ルクス・ディンド。学院の三年生で、生徒会会計にして王国騎士団長イデアの実子、ディンド家長男。

 アルベルト様の右腕とも言えるキャラで、パラレル設定の番外編では攻略キャラに昇格した人物だ。


「その、生徒会長のアルベルト様にお尋ねしたい事があったのですが」

「会長は所用で学院を留守にしている。お戻りになられるのは五日後になる」


 って留守? まだ入学式が終わったばかりなのに生徒会長が留守って……。

 王子でもあるから多忙なのは分かるけど、原作ではそんな事なかったのに。


「会長に尋ねたいこととはなんだ?」

「それは、その……」

「俺や他の役員には話せないことか」


 原作でのアデル様はお人好しで優しい方なんだけど、その見た目と口調のせいで勘違いされやすいキャラ、という設定だった。

 詰問するような口調だけど、訳するなら「俺では力になれないことなのだろうか?」のはず。

 信頼できる方だし、アルベルト様がいないならまずはアデル様に尋ねてみよう。


「私と同じ新入生のセシルという生徒をご存知でしょうか?」

「セシル……平民の生徒だな。彼女がどうした?」


 脅された事、は話さなくていいや。いきなり気絶させられたのは驚いたけど、それを伝えたらセシルが罰せられるだろう。仕返ししたい気持ちはあるけれど。

 ここは単刀直入にいこう。


「その彼女の正体についてなんですっ」

「……正体?」


 アデル様が困惑しているのが伝わってくる。

 流石にいきなり過ぎだよね。でも引かずにこのままの勢いで!

 誰も気付かないないこの状況への不満もある。フェリアにはかわいそうなものを見る目で見られるし……今までもよくあったけど。


「セシルはあの公爵令嬢のセシルリア様なんです! どうしてか誰も気付いてないですけど間違いないです。見た目は少し変わってますけどあれはどこからどう見てもセシルリア様に違いありません! どういうわけか静養してるはずの公爵家のご令嬢が平民のふりをして入学してきてるんです!」

「……少し落ち着け」


 私は早口でまくし立てたが、アデル様はそれを咎める事なく、冷静に対応してくれた。


「話は聞く。とりあえず座れ」

「はい、失礼します!」


 応接用のソファを進められ、アデル様も立ち上がると私の対面の席へと移る。

 実は女の子の扱いが分からず、苦手意識を持っているという設定があるから、冷静なように見えて内心ではてんやわんやしてると思うと少し可愛い。アデル様からすればいい迷惑だろうけど、許してください。


「あー、それでなんだ。セシルが身分を偽っている、そう言いたいのか」

「はい! 彼女は平民じゃなくセンティリア公爵家の──」

「待て。それを口にすれば平等を謳う学院の中でもそれはいらぬ波風を立てる事になる。先ほどの言葉は聞き流すが、それ以上は自重しろ」


 あう。フェリアと同じ反応。でも笑い飛ばしたりはしなかった……アデル様が笑う事自体がレアだけど。

 きっと私の妄言みたいな話でも、少なくともフェリアよりは真剣に聞いてくれるはずだ。

 頷き、言葉を選んで話を続けさせてもらう。


「モンテグロンド領に隣接する土地にその方のお家の別荘があるんです。それで幼い頃に一度だけお見かけした事があって……時を経ているとはいえ、見間違えたりしませんっ。彼女は間違いなく平民なんかじゃないんです」

「……身分にかかわらず、未来ある者にはそれに相応しき教育を。国王が唱えられた理念を体現したこの学院は平民の入学を認めている。だが素性が分からぬ者を受け入れる事は決してない。一般生徒である君に話す事は出来ないが、彼女の身元ははっきりしている」

「ですけどっ」

「君の思うような由緒ある家柄の人間なら、他の生徒たちとて気付くはずだ」

「……それに誰も気付かないからこうして幼少の頃から繋がりがあるだろうアルベルト様を訪ねたんです」


 薄々分かってはいたけど、話は聞いてくれてもそう簡単に信じてはくれない。

 やっぱりアルベルト様と直接話すしかない。アルベルト様ならきっと……!

 結果的にセシルリアの片思いに終わったとはいえ、原作では婚姻関係だった二人。

 原作と違っていても、婚約者だったはずのアルベルト様までセシルの事を見破れないなんて、そんなのはあんまりだ。そんな軽薄な人が大人気キャラだなんて思いたくない! ……いや、それは押しつけかもだけど、だとしてもそんな酷い話であってほしくないんだ。


「……そんな顔をするな」

「あっ、申し訳ありません……急に押しかけてこんな話をして、ご迷惑ですよね」

「入学したばかりで不安も多いだろう。それを解消するのが生徒会の役目だと会長は仰っていた。会長と、セシルにも俺から話をしておく」

「本当ですかっ!?」


 思わず身を乗り出せば、アデル様は顔を逸らしながら頷いてくれた。なんて良い人……!


「だっ、だから今話したような内容は他では口にするな。君だけでなくセシルや他の平民にまで要らない疑いの目が向けられる可能性がある」

「はいっ!」


 予定とは違った展開だけど、これでセシルの事がアルベルト様の耳にも入る。

 そしたらきっと気付いてくれるはずだ。

 そうなったらあの原作以上に尖っているセシルも棘が抜けて、原作では叶わなかったアル×セシルートに突入するかも……!

 アル×セシ応援し隊として期待せずにはいられない!


「では、すまないが俺はまだ仕事が残っている」

「あ、はい……お忙しいのに本当にありがとうございますっ」

「気にしなくていい。他にも困った事があれば俺や他の役員を頼ってくれ。教師相手では相談しづらい事も……いや、入学早々に一人で会長を訪ねてくる君には余計だった」

「いえ、そんな! これからも頼りにさせていただきます。アデル様……いいえ、アデル先輩!」


 勢いよく頭を下げて感謝を伝えると、アデル先輩は僅かに頬を綻ばせた。

 女性が苦手とはいっても、こういう体育会系のノリなら少しは気安く接してくれると思ったけど、大正解だった。

 胸のもやもやが少し晴れた私はもう一度大きく頭を下げ、生徒会室から退室した。

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