第2話
「──貴族も平民もなく、国の為、民の為、皆さんと共に励めることを嬉しく思います。入学おめでとう」
ベルンヘルツ王国 王都ベルセリア郊外。
入学に際する生徒会長の祝辞が紡がれ終えた魔法学院の大講堂に盛大な拍手が響き渡る。
王都に約百年前に創立された王立魔法学院は魔法の才を持つ貴族と一部の平民が十四の歳に入学を義務付けられた学び舎だ。
四年間の研鑽を終えた卒業生たちの多くには国に仕える栄誉と明るい未来が約束される──。
悪役令嬢様をお救いして
学院に入ると決めたのなら原作知識を利用したいからと目覚めた事を隠し、原作通りの流れで物語のプロローグである入学式を終えた。
今、入学の祝辞を述べたのがアルベルト・モンド・ベルンヘルツ様。第一王子にして学院の生徒会長。
いやぁ流石は原作キャラ! という風格。
原作でも彼の祝辞から物語が始まり、その堂々たる姿に綺麗な方だなぁ、と
キラキラとしたエフェクトとBGMが脳内再生されてスチル回収もバッチリでした。やっぱり原作再現を見ると転生したのだと実感が湧くなぁ。
魔法学院の入学を皮切りに超絶イケメンたちとの出会いが続くのだが、これは覚悟していてもときめいてしまいそうだ。
でも駄目よ! もし私が惚れてしまって万が一にも原作のように誰かの特定ルートに入ってしまうことになれば、カップリングの解釈違いによって血を吐くのは私自身なのだから!
この世界が今の私にとっては現実。ゲームと同じように見えても彼らは今を生きる人間……だとしてもそう、彼らはアイドル的存在として位置付けるべきだ。恋愛関係になるなんてもってのほか! 私は外野からわーきゃーかっこいいーと言ってるのがお似合いである。
攻略、ダメ絶対! をスローガンに四年間の学院生活を乗り切るのだ。
原作キャラの彼ら以外にもこの学院は美男美女ぞろいのイケメンパラダイス。この中の誰かと清いお付き合いを経てゴールイン、つつましやかでも良い、子供に囲まれた幸せな生活を送る事を目標に頑張っていこう。
ふふふ、私の未来の旦那様をこの中から見つけてみせるわ。
さて、ゲームだと入学式イベントの後は自由行動で学院内から目的地を選択し、キャラクターとの出会いイベントを起こすのが最初の数日間の流れだ。
入学式終わって早々授業もなく歩き回るのってどういう事なの、と思ったけれど、現実では入学式の前にオリエンテーションを済ませ、授業は明日から、という事になっていた。
特定のイベント時ぐらいしか授業風景は描写されてなかったけど、明日以降は授業を行いつつ、合間の休憩時間に自由行動していた、という設定なのだろう。
原作キャラたちと出会いイベントを起こす必要はない。無理に避ける必要もないけど、たまに学院内で見かけたらラッキー! 目の保養! ぐらいに思っておけばいい。
そして私が救おうと決めた悪役令嬢様──セシルリア・ルノア・センティリア公爵令嬢。彼女との出会いはさっきのアルベルト様との出会いイベントを起こすと強制発生する。
アルベルト様の婚約者で、おどれなに人の婚約者に色目使っとるんじゃゴラァ、と目の敵にされて共通ルートでは延々と嫌がらせイベントが発生する。
各原作キャラとの出会いは遅らすことは出来るけど、最初の一週間で必ず発生するので、共通ルートは攻略キャラとセシルリア様との会話が多くなる。
アルベルト様ルートに進もうとせずとも他のキャラクターにも色目を使っているとか何とかで嫌がらせイベントは発生する。
そういうお邪魔キャラというかライバルキャラはゲームには付き物だとは思うが、もうちょっとキャラを増やしても良かったのではないだろうか? セシルリアは傲慢で高飛車な典型的な悪役キャラでプレイヤーからのヘイトを一身に集めるキャラだった──パラレル設定のファンディスクでのみ優しくて格好いいセシルリア様を拝める──けど、いくつかのイベントでは彼女の発言や行動で今一番好感度の高いキャラが分かるのでお助け友人キャラみたいな側面も持っている。セシルリア様働かせ過ぎでしょ。
うーん、セシルリア死亡イベントを回避するにはそのイベントに立ち会わないといけないからなあ。そうなるとアルベルト様との出会いイベントは起こして、原作キャラの誰かとそれなりの関係は築かないといけない。
でもそうすると死亡イベントまで嫌がらせイベントも発生し続ける。それはちょっとなあ……、なんてジレンマにお悩みの私!
アルベルト様との出会いで強制イベントが発生するのならそれより先にセシルリアとエンカウントすればいいじゃない!
そもそもセシルリアとの出会いはセシルがアルベルト様をお茶会に誘い、それに向かう途中のアルベルト様と学院内で道に迷ってしまったレイラが出会う所から始まる。
親切にも道案内をしてお茶会の時間に遅れてしまったアルベルト様を探していたセシルリアが仲睦まじそうに歩くレイラとアルベルト様を見つけ、そこからセシルリアはレイラを目の敵にするようになる──というものだ。
ちなみにアルベルト様ルートに進もうと思ったら自由行動の初手でそのイベントを起こすのだが、起こさなかった場合も強制発生するまでの一週間、常に自由行動の選択肢にアルベルト様が表示される。一週間毎日お茶に誘い続けるのか……。
原作ではアルベルト様ルート以外で特にアルベルト様自身がセシルリアを嫌っているような描写はされていなかった。まあ好意を抱いているわけでもなく、王子として婚姻を受け入れているだけのようだったが。
逆にセシルはアルベルト様ラブだから、私が横やりを入れず、かつセシルリアを救えばそれなりに良好な関係でゴールイン出来るんじゃないだろうか。
というわけで、私はアル×セシ応援し隊を結成する! セシルリア様取り巻きルートとも言う。
原作でもアルベルト様が絡むとセシルはちょろ可愛かったからね。二人の仲をお邪魔する気なんてないよーお似合いですねーうふふ、応援しておりますわーとアピールしていけば好感度が下がる事はないはず。
お茶会は中庭にある一番大きな
セシルリアもアルベルト様も、その姿は食堂には見えない。これなら初日からイベント起こせるかもしれない。さっそく中庭周辺の廊下を周回しまくろう。
セシルリアもハッピー、私もハッピーな未来の為に!
──そう思っていたはず、なのに。
◇◆◇◆
「んぁ……?」
あれ、私何処で何をしてたんだっけ。
確かお昼ご飯を食べて、中庭の方に行こうとして……。
「ああ、目、覚めた?」
「へ……? あ、はい……って!」
どうやら眠っていた──いや違う! 気絶していた私に掛けられた声に、ベッドから慌てて体を起こす。
思い出した。私、食堂でセシルとぶつかって、医務室に運ばれて、急に押し倒されて、それから……!
「さっきは悪かった。手荒な真似をして」
「そっ……そうですよ! いくら公爵令嬢で悪役令嬢だからっていきなり!」
「ああ」
原作以上に過激なセシルの蛮行に声を荒げると、隣のベッドに腰かけていたセシルがゆっくりと立ち上がった。ひっ、ひえっ!
気絶する直前の光景を思い出し、怖くなってつい目をぎゅっと閉じてしまう。
けれど俯いて怯える私の顎に手を添え、強引に顔を上げさせられた。
「どうやらあんたからはじっくりと話を聞く必要があるみたいだ」
赤毛混じりの黒髪の間から覗く、
怖い。体は竦んで、息が苦しい。
だけどどうしてだろう。
冷たい光を宿したその瞳に、強く惹かれて目が離せなかった。
ああ、そうか。これが──蛇に睨まれたカエルの気持ち!
「や……優しくしてください……?」
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