第8話 年上の娘と生き別れになった結末
コンテナに浴槽はない。
デカイ金ダライがあったので、それふたつに湯を入れて1人が座り体を洗い、もう1人は隣の金ダライから湯をかける。
それを1日交代で入浴と補助で交互に変わっていた。
昨日までは。
「アキラさーん、ホントに魔法で土を固めたら、お風呂が出来たよー!」
いつの間に異世界魔法物の情報を得たのかな?
大ハードのアニメ?
それとも小説まであったの?
昼に夜を作ったと思ったら、夜には浴槽を作ってました。
「じゃあ、調度いい温度のお湯を出せるか、やってみようか?」
「はい」
ティアは瞳を閉じて集中し、今度は両手の先に水の球体を生み出した。
「あっ」
へっ?
ティアの作り出した水球からは、無限とも思える程にお湯が溢れ出し、俺達を別方向に押し流した。
コンテナ!
最速で飛び出すように強く念じて、現れたコンテナに空へと弾き飛ばされる。
腰を捻り乱回転に逆らい停止させ、コンテナ目掛けて手足を使った4点着地を決める。
「がぬぬぬぬぬぬぬ」
着地に失敗して流れ続ける湯に落下する事はなかったが、代わりにもの凄く痛かった。
舌を噛まないように歯を食いしばってたので、若干顎も疲れた。
この夜から俺はコンテナを動かさずに、ティアの出した水球の側で彼女を待ち続けた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ティアと離ればなれになってから、どれだけの年月が過ぎただろうか。
大ハードの中身も資料関係も、全ての内容を覚えてしまった。
そうなるとやる事が何もないので、必然的に退屈から逃げるために体を動かす。
動画になっていた武術も全て覚えた。
師匠がないなかでの我流なので未熟なのだろうが、動きだけならばコピーは完了した。
午前中はコンテナの上で武術の動きをマネて、午後からは魔法が使えるようになればと瞑想。
魔法に関しては未だに、魔力の魔の字も感じられない。
食料が減ってきたらコンテナの上を走り全力で上にジャンプ。
コンテナから足が離れたらコンテナを消して、元の高さに落ちるまでにコンテナを出現させるだけ。
それでも最近は、食自体が細くなってきた。
俺もかなり老いたのかもしれない。
とびとびで書いていた日記も最近は思う事が多くなり、毎日それなりの量を書いている。
水球を中心に様々な方向に投げていた手紙入りのビンも、最近は投げる元気がない。
確かに無念はある。
だってまだ童貞だし。
それでも諦めて受け入れる。
無念を持ったまま死ぬとファンタジー世界でなら、アンデッドモンスターになってしまいそうだし。
その晩、俺は誰にも看取られずに、静かに息を引き取った。
はずだったんだけどな。
蘇生?
それとも転生?
なんか幼児の体になって生きてるんだけど?
あっるぇー?
直後。
俺の目の前、コンテナの天板の上に、あの日まで見慣れていた姿が舞い降りた。
「お待たせして申しわけありません、アキラさん。ティア、地球を救って帰って来ました」
ん?
難聴かな?
今、地球とか言わなかったかな?
「それと、アキラさんのご両親にも許可を得てきました。今日から私達は夫婦です」
なんかロシアの文学少女的な見た目と性格の娘が、老いて幼児に転生した俺の妻になっているんだが?
「すぅーーーーーー……ええええええええええええっ!!」
この驚き、世界の端まで届け!
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