第2話 不足していた異世界の説明は制服に入れられていた手紙だった

 気がつけば荒野の真ん中にポツンと寝ていた。

 確かに映画で見るような大陸の荒野って感じはするけど、特筆して異世界って感じはしない。

 魔法陣が現れる前まで足元にあったコンテナもなくなっていて、やっぱりドッキリなんじゃないかなって思う。

 有名人相手じゃなくて素人相手にするからこその何かが、今回の企画にはあったんだろう。


 黒スーツからは、状況が変化したら読むようにと手紙を預かっているので読む。

 異世界に行くとコンマ何パーセントの確率で外れるが、ほぼ何かしらの特殊能力が身に付いているらしい。

 つまりリアル厨二病になるらしい、なんてこった。


「ファイアー、ウォーター、ウインド、サンド、サンダー、アイス、ダーク、ライト!」


 ええい、何も起こらんか。

(気分は赤い動くスーツのパイロット声)


「飛拳、斬空、飛行、空歩、転移、鑑定、千里眼、アイテムボックス、チャーム、奴隷化、発情、惚れろ!」


 ちっ……まさかの外れ?

 いや、まだだ。

 きっと冒険者ギルドに行ったら水晶で俺のスーパー能力が判明するはず!


 だったらと気を取り直して移動しよう。

 空の明るさから言って多分今は午前。

 なんで太陽の位置からだいたいの東に向けて歩く。

 理由は、夕日を背にして歩きたいから。

 靴は校舎から出る時に迷彩服の人がスニーカーに履き替えさせたので、足への負担はそこまでない。

 水がないから大変だけど、どうしようもないから休憩しながら昼まで歩いた。

 なんで昼までかって?

 状況が動いたからさ。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「チクショー! ここ、マジ異世界だよ! てかゴブリン多くてめんどくせー!!」


 狩りをしていたのか風下から臭いを辿って来たんだろう。

 匹?体?

 異世界ザコ四天王の一角のゴブリン5体が、枝に石の穂先を括り付けた粗末な槍を持って走ってきた。

 ギャーギャー言いながら走ってきたので接近には気付けたが、俺は即座に逃走を決断した。


 日本で殴り合いのケンカをした事がない素人が、武器を持った身長1メートルちょっとの5人組に勝てるのか?

 まず無理。

 それに大抵の場合、ゴブリンを舐めて戦っていると、ほぼ間違いなく返り討ちに合うのは既にファンタジーのお約束と化している。

 一瞬でそこまで判断したら、即ダッシュ。


 200メートルも走らないうちにゴブリン達の走る速度の違いで、ゴブリン同士でも距離が開き始めた。

 俺は一旦停止して乾いた地面を蹴って擦り、土から砂を作ると手に握った。


「反撃開始じゃ、オラー!!」


 腕を真っ直ぐ突き出すように、先頭を走ってきたゴブリンの顔目掛けて砂を投げつける。

 目潰しが成功すると混乱して槍を振り回すゴブリン。

 その間になるべく音を立てずに走り、背後まで回り込むと延髄目掛けて渾身の飛び蹴りをかます!!


「ギャー!」


 背後から蹴り飛ばされ槍を手放し転倒するゴブリン。

 手放された槍へと素速く駆け寄り、槍を手にするとゴブリンの元へと舞い戻る。

 立ち上がりかけていたゴブリンを背中から槍で突き刺して、死亡を確認している間もなく他の4体から逃げるために走る。


 2体目からは学ランを投げ、2本に増えた槍を投げと手を変えながら全てのゴブリンを倒した。

 疲労を抱えながらもわざわざ歩いて戻り、最初の1体目から死亡を確認していった。

 万一ゴブリン達が生きていて、仲間のゴブリンに逃げた方向を伝えられたらとビビったからだ。

 戦利品の槍は枝が頑丈な物を2本。

 穂先の石と結ぶ為の蔓は全て回収して、学ランのポケットに入れておく。


「クソッ! 何が異世界だよ。ハーレム以前に即日死亡のピンチだったじゃないか! 近くにあったはずのカバンもなけりゃ、足元にあったコンテナもおっ!!」


 ゴブリンに襲われた不満を口にしていたら、不意に足元が持ち上がって軽く宙に飛ばされた。


 ゴンッ!


「ってー……もう、何なんだよ。ふざけんなよ」


 背中の痛みを堪えて起き上がると、見覚えのあるコンテナが足元にあった。

 なんだ、どうなってんだ?

 いや、そんな事より水だ!

 俺はコンテナ上部にある戦車や潜水艦っぽいハッチ?アレを開くと、戸締まりもせずに荷物満載のコンテナ内部で水を探しまくった。


 太った灯油管みたいな白いタンクにあった水を見つけた。

 サーバーみたいなコックがあったので、その真下に顔を持っていって真上を向いてコックをひねる。


 ゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッ。


 半日以上ぶりの水に、呼吸も忘れて限界まで飲み続ける。

 ああ、美味い。

 水がこんなにも美味いなんて、思った事もなかった。


 その日は懐中電灯を探して電池をセットすると、コンテナのハッチを閉めたら倒れた。

 ダンボール箱の重なった上に落ちたので怪我はないと思うな。

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