隣り合って、交わらない

雨矢れいや

隣り合って、交わらない

1か月前、同じクラスの男子がタオルを落としたので拾って届けてあげた。


3週間前、その男の子が初めて話しかけてきた。


2週間前から、その男子は何かと関わってくるようになった。


1週間前から、弁当を一緒に食べようと誘われるようになった。



昨日、好きですと言われた。



「それで、どうすればいいと思う?」

「知らねぇよ」


 放課後。

 誰もいない2-D教室に二人。

 向かい合ってるわけでもなく、ただ隣同士で座っている。

 わたしは読む気のない文庫本に目を滑らせていて、隣のコイツは教科書の問題をノートに書いている。ただ、それだけ。


「いや、だから、好きって言われたんだけど。これってどういう意味なの?」

「普通に考えて告白だろ」

「そうだよね~。まあそうなるよねぇ」


 ペンの音にのせて、はあ、と聞こえた。なにその溜息、腑に落ちない。


「お前、あれだろ。どうせ『タオル拾ってくれた時から気になってたんです』とか言われたんだろ?」

「ほんとに君はわたしのことお見通しなのね」

「一般論だよバカ」


 教室はぜんぶ、茜色。手元に斜めに射し込んでくる夕陽にわたしは目を細める。


「好きって言われてもさあ、いきなり過ぎてよくわかんないよね」

「お前はその男子のことすきなのかよ」

「まあ、普通に人として?」


 会話は続く。


「だいたいタオル拾ったくらいで好きになるものなの?」

「人によるんじゃねえの」

「君はわたしがタオル拾って届けたら好きになる?」

「ねえな」


 他愛もない会話。なんの捻りもない会話。


「少女漫画の展開がよくわかんない。この場合、わたしも好きですって言えば男子にとってハッピーエンドだし」

「お前が振ったら、振った後にお前がその男子を気にして結局付き合うエンドだよな」

「そんなことになると思ってるの?」

「それこそあり得ねえな」

「わかってるならよろしい」


 ページの変わらない本を置いてぐっと伸びをすると、隣でコイツは教科書とノートを鞄にしまっていた。どうやら勉強は終わったらしい。


「まあ、どうせ振るんだろ?お前は本気で好きな人以外とは付き合わない主義だからな」

「ご明察。悪いけど彼は友達程度で終わりね」


 本を閉じて席を立つ。ガタガタと椅子の音が響く。


「ところで、どうしていつもうちのクラスに来るのよ」

「なんとなく」

「変なの」

「お前こそ、どうしていつもあの席に座ってるんだよ。お前の席あっちだろ」「なんとなくです」

「ふーん」


 どちらともなく教室を出る。そのまま帰路を共にするのがわたしたちの常。


「俺、お前のこと全然わかんねーわ」

「わたしは君のことわかってるつもりだけどね」

「前言撤回。お前が俺をわかってる100倍、俺はお前をわかってる」

「つまりほとんどわからないのね」


 うっせ、と小さく聞こえたのでフッと鼻で笑っておいた。




End

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隣り合って、交わらない 雨矢れいや @RainArr0w

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