第7話 ナギのチートスキル

 私が異世界に来てから早くも二週間が過ぎた。


 その間私は猫の耳亭でバイトしたり、ルイーナとお話したり、リルスの街を探索したりしてたわけだが――


「なんか異世界生活が思ってたのと違った件について」


 平和なのはいいことなんだけど、やってることが日本にいたときとあまり変わってない気がする。


「ナギちゃんは一体どんな生活を想像してたの?」

「こう…強大な敵と戦ったりお姫様を助けたり?」

「あはは。今どきそんな冒険譚なかなかないよー」


 ううむ。別にわざわざ危険な目に遭いたいわけじゃないけど、何も起きないというのはそれはそれでなんか物足りない。


「ナギちゃんが魔法を使えればクエストに一緒に連れていけたんだけどね」

「その話は蒸し返さないで……」


 残念ながら私には魔法に適性がなかった。魔力はあるのに魔法が使えないとわかったときのガッカリ感よ。


 ならば身体能力の方はどうか? 結論から言うと日本にいたときとほとんど変わっていなかった。


 いや、変化自体はあったんだよ。でもせいぜい100メートル走が10秒から9秒になった程度で、とてもじゃないけど冒険者としてやっていけるレベルじゃなかった。


 こんなことになるならリルスから私のチートスキルについて無理矢理にでも聞いておけばよかった。なにが「ひ・み・つ♡」だよ。 あー思い出したらイライラしてきた。


「ナギちゃん顔怖いよ(ガクブル)」


 おっといけない。ルイーナを怖がらせてしまった。笑顔笑顔。


「ルイーナ。私リルスにちょっと用事ができたから神殿に行ってくるね」

「えっあっちょっとナギちゃーん!」


 ☆☆☆


 というわけでリルスをたてまつっている神殿にやって来ました。


「そういやここから私の異世界生活がスタートしたんだっけ?」


 あれからもう二週間が経ったのか。時間の進みは早いな。


 私が異世界に来てからのことに想いを馳せながら神殿の扉を開けると――


「あら、ナギいらっしゃぶべらっ」


 私のドロップキックを受けてリルスが吹っ飛んでいく。今の女神が発していい声じゃなかったぞ。


「ちょっとナギ。随分なご挨拶じゃない」

「自分の胸に聞け」

「ふむふむ。なるほどなるほど。せっかく異世界に来たのに魔法が使えない。身体能力も常人のまま。日本にいたときと全然変わってないことにご立腹なのね」

「そこまでわかってるならさっそく私のチートスキルについて聞かせてもらおうじゃないか」

「…そうね。ナギもそろそろ異世界に慣れてきたことだし教えましょうか。本当ならナギがルイーナを攻略おとしてから教えるはずだったんだけど、もう二週間も経つのに進展全くないみたいだし?」


 そう言ってリルスが私に非難の目を向ける。


「じ、十分に仲良くなれたと思うんだけど」

「まだ友達の範疇じゃない。ダメよもっとグイグイいかないと」

「恋愛初心者に無茶言うな!」

「これからのナギに期待ね。で、ナギに与えたチートスキルについてなんだけど、簡単に言えば女の子を攻略すればするほど強くなるスキルよ」

「……? そこのとこ詳しく」

「そうね。わかりやすいように数式で説明するわ」


 リルスが指をパチンと鳴らすとホワイトボードが現れる。リルスって指パッチン好きだよね。私を異世界に転移させるときもやってたし。


 そしてホワイトボードに書かれたのは――


 ーーーーーーーーーーーーーーー

 ナギの元のステータスをa、チートスキルが作用したあとのステータスをb、攻略した人数をnとしたとき、


 b=aの(n+1)乗


 ーーーーーーーーーーーーーーー


 あー、これ数学嫌いが見たら発狂するやつだ。


「もっと具体的に」

「もーナギはワガママね。じゃあ仮にナギの元々の知力のステータスを2として」

「低っ!?」

「…2人の女の子を攻略していた場合、ナギの知力のステータスは2×2×2で8になるわ。4人だった場合は2×2×2×2×2で32。つまり元の数値の16倍ね」

「それはすごい。でも元のステータスが低いんじゃああまりその効果を生かせないのでは?」

「そこが面白いところでね。ナギは女の子と親密度を上げるたびに元のステータスもアップするの。いわば親密度がナギの経験値ってことね」


 ふむ。なかなかユニークなシステムだな。


 とここで私はあることに気づく。


「じゃあリルスが私にチートスキルの効果を教えなかったのって、単なるいじわるじゃなく――」

「打算で女の子を攻略してほしくなかったのよ。強くなるために私はあなたと仲良くなりたいんです、じゃあ興ざめもいいところでしょ。そんな百合まっぴらごめんだわ」


 そうだったのか。


「ごめんリルス。八つ当たりして」

「いいのよ。ついでにいいこと教えておいてあげる。ナギのチートスキル――ハーレム女王クイーンと命名しておくわね――はステータスを上げるだけじゃなくて、攻略した女の子のスキルを使えるようにもなるの。つまりもしナギがルイーナを攻略した暁には――」

「魔法が使えるようになる?」

「それも全属性ね。あ、教えておいてなんだけど一応今の記憶は消しておくわ。理由はさっき言った通りよ」

「打算ありきでルイーナを攻略してほしくない、と』

「ええ。特にナギは魔法に憧れてるみたいだからね。でもルイーナと恋仲になれば何かいいことあるかも? くらいの感情は残しておくわ。ナギにはもっと恋愛に積極的になってほしいし」

「頑張ってみるよ」

「ファイトよナギ。あ、そうそう。言い忘れてたんだけど、私明日から1カ月くらい

 音信不通になるから」

「なぜに?」

「ナギを日本からこっちの世界に呼び寄せた件が上にバレて呼び出しくらったのよ。あー憂鬱だわ」


 まさかの神様業界がサラリーマン的システムで成り立っていた件。私が異世界に来てからつくづく理想と現実の違いを見せつけられてる気がするよ。

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