第4話 猫の耳亭
冒険者ギルドを後にした私とルイーナ。ルイーナが次に案内したのは『猫の耳亭』という宿屋だった。
「じゃーん。ここがわたしの実家です!」
「へー。ルイーナって宿屋の娘だったんだ」
「うん。さっそくはいろー」
『猫の耳亭』に入るとそこはケモ耳天国だった。
猫耳と尻尾を生やした女の子たちが忙しなく宿屋内を動き回っている。
「あ、今さらだけどナギちゃん獣人に偏見はないよね?」
「ないよ」
むしろ大好物である。
「よかったー。今はあまり見かけないけど、いまだに獣人に偏見を持ってる人もいるから……」
そう言うルイーナは悲しそうだった。そりゃあ自分の実家の従業員を悪く言われるのは嫌だよね。
「ナギちゃんちょっと待っててね。今からお父さん呼んでくるから」
ルイーナの父親か。一体どんな人なんだろ?
しばらくしてルイーナが連れてきたのは――
「いらっしゃい。アタシが猫の耳亭主人兼女将のクロだよ」
黒の猫耳と尻尾を生やした美人さんだった。
「はじめまして。ナギです…えっ女の人?」
「なんだい。お嬢ちゃんはアタシが男に見えるのかい?」
「いや、そうではなくてクロさんはルイーナの父親なんですよね?」
「そうだけど? 」
クロさんが訝しそうに私をじっと見つめる。
「ルイーナ。もしかしてこの子がリルス様がおっしゃっていた女の子かい?」
「そうだよー」
「なるほど。道理でこの世界の常識に疎いわけか。アンタ、異世界人だね?」
「っ……!」
早くも私が別の世界から来たことがバレてしまった。どうしよう。
「ああ、そんなに怯えなくていいよ。異世界人ということはアンタはリルス様の客人ってことだ。悪いようにはしない。というかそんな罰当たりなこと恐ろしくてできやしないよ」
ほっよかった。
「それにしてもどうしてリルス様は異世界人を……?」
「あの、異世界の人がこの世界に呼ばれるのって珍しいんですか?」
「そうだね。確か文献によると前回異世界人が確認されたのは数百年前だったはず」
かなり昔だな。当時は日本に漫画なんてものはないから私とは違う目的で呼び寄せたのだろう。
「それこそ魔王討伐とか……」
「おや、よく知ってるね。確かに前回異世界人がやってきたのは魔王様を倒すためだったと聞いてるよ。結局は返り討ちにあったみたいだけど」
駄目じゃん。
「昔の話はさておき、ナギちゃんはどうして自分がこの世界に連れてこられたのか知ってるかい?」
言えない。まさかリアルで百合を見たいからというくだらない理由で私が呼ばれたなんて。
「あ、あはは……」
「言いたくないってんなら無理には聞かないよ。ただひとつだけ聞かせてほしい。ナギちゃんは戦力として呼ばれたんじゃないよな?」
「はい。それは間違いなく」
「ならいいよ。さてと、長話してしまったね。さすがに疲れたろう。ルイーナ。ナギちゃんをアンタの部屋に案内しておいで」
「わたしの部屋?」
「なんだい。ルイーナはナギちゃんをひとり部屋に泊まらせるつもりだったのかい? 」
「私はそのつもりだったんですけど」
「つれないこといいなさんな。リルス様いわくナギちゃんはルイーナの運命の人なんだろ? ならアタシの家族も同然。一人部屋に泊まらせる道理はないねぇ」
「本当にいいんですか?」
「遠慮しなさんな。ルイーナの運命の人云々抜いてもアンタが悪い人間には思えないし、知らない世界にきていきなりポイじゃあんまりだろ。だから生活が安定するまではアタシの世話になりな」
そう言ってクロさんは私の肩に手を置き、ニカッと笑う。
やだ、この人イケメンすぎ。
こうして私は猫の耳亭で暮らすことになった。
~おまけ~
ナギ(以下ナ)「そういやなんでクロさんがルイーナの父親なのかわからないままだ」
ルイーナ(以下ル)「えーとね。まず前提としてわたしの親はふたりとも性別は女なんだ」
ナ「ふむふむ」
ル「でも女同士だと子どもはできないでしょ?」
ナ「ああ、セッ◯スできないもんね」
ル「いや、◯ックス自体はできるんだよ。魔法もしくは薬で男性器生やせるから」
ナ「マジで!?」
ル「ただし妊娠はできない」
ナ「妊娠を可能にする魔法とか薬はないの?」
ル「あるにはあるんだけど禁呪もしくは違法薬物扱いだね」
ナ「なるほど」
ル「話を戻すけど、妊娠を可能にする方法がひとつだけあるんだ。それが結婚してお互いの性を固めること。どちらが母親になるか、父親になるか、結婚式でリルス様に宣言するんだよ」
ナ「つまりクロさんは父親になることを宣言したわけだ。でもそれでどうして妊娠ができるようになるの?」
ル「…父親の方はリルス様によって半永久的にタマタマつきのふたなりになる」
ナ「ファッ!?」
ル「そして離婚すれば勝手に元に戻る」
ナ「さすが異世界。なんでもありだな」
ル「まあその代わりに父親は母親でしか性的に興奮できなくなるんだけどね」
ナ「そうでないと困る」
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