第3話 冒険者ギルド

「やっぱり子どもに見られてたかー。まあ子ども扱いされるのには慣れてるから別にいいんだけどね。ハハ…」


 死んだ目で虚空を見つめるルイーナ。

 どうやら私はルイーナの地雷を踏んでしまったらしい。


「改めて自己紹介するね。わたしはルイーナ。年齢は18で、ここリルスの街で冒険者やってまーす」

「冒険者? 魔法少女じゃなくて?」


 ルイーナの恰好を改めて見ると、黒の三角帽子にマントを羽織り、背中には大きな杖を背負っている。どっからどう見ても魔法少女なんだよな。


「んー。一応戦闘のメインは魔法だから魔法少女と言えなくもないけど、この世界に魔法少女なんて職業はないんだよね。魔導士ならいるけど」

「なるほどね。魔導士ではないんだ?」

「ナギちゃんがどういう認識でいるのかわからないけど、魔導士は魔法を使えれば誰でもなれるわけじゃなくて、国に認められなければなれないんだよ」


 国家公務員のようなものと考えればいいのかな。


「ついでに冒険者について説明しておくと、簡単に言えば依頼を受けてそれを解決する何でも屋。魔物を討伐したりダンジョンを探索したりするのがメインかな。もっともランクが低いうちは簡単な依頼——たとえばペット探しを手伝ったり——しか受けられないけど」


 冒険者は概ね私の想像通りか。


「そうだ。せっかくだし今から一緒に冒険者ギルドに行く? どうせナギちゃんの身分証明書つくらないといけないし」

「そうだ。その前に聞いておきたいんだけど、ルイーナは私を危険人物——とまではいかなくとも怪しいと思わないの? いくらリルス…様のお告げがあったとはいえ」


 私だったら身分証明書すらない人間をすぐには信用しない。というか怪しむのが普通だろう。ルイーナは警戒心がなさすぎるのでは……?


「ナギちゃんがどこからやってきたのかは聞かないでおくけど、認識は改めさせてもらうね。この世界ではリルス様のお告げは絶対なんだよ。リルス様の言葉を疑うなんてもってのほか。だからリルス様がわたしに親切にするように言ったナギちゃんが危険人物であるはずがない。まあそれを抜きにしてもナギちゃんが危険人物とは到底思えないんだけどね」

「…その根拠は?」

「勘。でもわたしは人を見る目は確かなつもりだよ」


 そう言ったときのルイーナは私なんかよりもはるかに大人びて見えた。


 ☆☆☆


「お待ちしておりました。あなたがルイーナ様がおっしゃっていた方ですね」


 ルイーナに連れられて冒険者ギルドに着くと、美人な女性が私たちを出迎えた。


 私が唯一不安だったのはリルスのお告げがルイーナの妄言と捉えられていないかどうか。でもこの様子なら大丈夫だな。


「はじめまして。ナギといいます」

「ナギ様ですね。ではさっそくギルドカードをおつくりしますので、私についてきてください」


 ギルドの受付で私と美人な女性が向き合う形になる。


「自己紹介させていただきますね。私はナディア。このリルスの街にて冒険者ギルドの受付を務めさせていただいております。以後お見知りおきを」


 丁寧な所作でナディアさんが頭を下げる。この人本当は貴族だったりしないよね…?


「それではナギ様。こちらの水晶玉に手を置いてください」


 言われた通りにすると、水晶玉が一瞬光り、続けて下の台座からカードが排出される。


「こちらがナギ様のギルドカードになります。なくしますと発行手数料が3万L(リルス)かかりますのでご注意を」


 お金の単位もリルスなのか。この街の名前といい、リルス自己主張が激しすぎない?


(私が決めたわけじゃないから不当な言いがかりはやめてちょうだい)


 私の頭の中でリルスの声が響く。さすが女神。テレパシーはお手の物か。


「どうされました?」

「いや、なんでもないです。どれどれ……」


 カードには以下のような内容が記されていた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 名前:ナギ(16)

 性別:女

 種族:人間

 役職:未定

 冒険者ランク:F

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「結構シンプルなんですね」

「はい。ごちゃごちゃしていると見にくいですので」

「確かに。この役職というのはどうやって決まるんですか?」

「それはランクがDに上がった際、面談および模擬戦闘を通してギルドマスターが直々に適性を見定め決定します」

「そうなんですね」

「ちなみにギルドマスターは私です」

「げほっごほっ」


 思わずむせてしまった。


「ナディアさんは受付嬢じゃなかったんですか?」

「受付嬢兼ギルドマスターです」

「えぇ……?」


 それでどうやって仕事を回してるの? 受付嬢もギルドマスターもどちらもかなり忙しい仕事のはずだよね?


 両立なんてできるのだろうか、という私の疑問にルイーナが答える。


「あーナギちゃん。ナディアさんは分身ができるんだよ」

「は? 分身?」

「実際にお見せしましょう」


 そう言うと私の目の前でナディアさんがふたりになった。


「もうひとりの私。ギルドマスターの仕事に取り掛かってください」

「了解」


 ふたりのナディアさんのうち片方がギルドの奥に消えていく。まるで狐に化かされた気分だ。


「そっかー。普通の人はそういう反応になるよね。わたしを含むリルスの街所属の冒険者はこの光景に見慣れてるから全然驚かないんだけど」

「…ナディアさんって何者?」

「私はただの受付嬢ですよ。ギルドマスターはおまけです」


 あ、そっちがメインなんですね。

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