第2話 大体代替のいる女

 人の多そうな機種、人気のロボットアニメの機種を選んでみる。


 私が小学生か中学生だかの頃にやっていたアニメで、当時周りではたいして人気はなかった記憶がある。


 私も私の周りも世間様とは離れてしまっているようで、このロボットアニメはいつの間にか社会現象という肩書きを手にして何度か映画化までしている。


 数年たってパチンコやパチスロで出てきてからは新たなファン層を集め、TV放映終了後数年してまたもや映画化。


 当時リアルタイムで観ていた人間よりパチンコやパチスロで知った人間の方が内容に詳しいのはお金が絡むからなのだろうか?


 まぁもとからちゃんと見たこともない私が、あっそれ知ってるぅ~、なんて男受けを狙いにいって失敗しただけの話なんだけど。


 男は好きな物の話になると熱くなりすぎて専門用語という呪文を唱えだすから困る。


 ロボットが戦って少年少女が青春してた話、ってだけしか知識が無い私が乗っかっていったのがやっぱり悪いだけの話なんだけど。


 空いてる席かと思えばそこに煙草のケースが置いてある。


 トイレなど一時的に席を外す際には煙草のケースを置いておく事が暗黙のルールらしい。


 これを無視して座ろうものなら恐そうなお兄さんに絡まれそうなイメージだ。


 人の代わりは煙草のケース、だ。


 これがくまのぬいぐるみだと、大人の事情で席を外す事になったみたいになる。


 別にフランス人形みたいな少女が置いていったという想像はわかない。


 ……どうでもいいか、こんな話。


 別の空席を見つけ、ちゃんと空席なのかを確認してから座る。


 私のパチンコ歴二台目となるので初めての時の様な失態はしない。


 先程は何が何やらわからず初心者丸出しというか挙動不審に陥ってしまった。


 昔付き合った男の付き添いでパチンコ店に入った事はあったし、横に座って男の打ってる姿を見ていたから大丈夫だろうとタカをくくっていたのだけどダメだった。


 当たり前である。


 私が見ていたのは当時心底惚れていた男の姿だけで、パチンコそのものには興味は無かったのだから。


 その男とはなんだかんだとあって別れた。


 すぐにその男の穴を埋めるように新しい男を見つけた。


 そして、その新しい男ともなんだかんだとあって別れた。


 また穴が空いて、また穴を埋める。


 私の恋愛なんてそれの繰り返しだ。


 誰かの代わりを誰かで埋めて、その代わりをまた他の誰かで埋める。


 その穴を100%埋めることはできないし、実際誰かの代わりを誰かで完全に補うのは無理な話だ。


 でも、プラスマイナスで多少の誤差が出ようが、そういうのを多目にみてしまうのが人の心というヤツだろう。


 近いモノであるなら代わりとして成立するのだ。


 ……穴を埋める為に私は恋愛してるとするならば、最初に空いた穴は何の穴なのだろうか?


 女性遺伝子としての本能か、ファザーコンプレックスの一種か。


 まぁ深く考えたところでロマンチックな話ではないことは確かだ。


 回し始めた液晶モニター内のルーレット。


 昔のお侍さんが出した損害を、近未来の少年少女が補ってくれることに期待した。


 私はいつも期待してばかりで、そして裏切られてばかりだ。


 すっかり長いこと居座っていたせいで自分の家のように感じていた彼氏の家で、他人の女の香りがした。


 そういう事は初めてではない。


 私の経験上の話でも、彼氏の家の中の話でも。


 初めてではない、これで五回目だ。


 いや、五人目だ。


 五種類の女の香り。


 香水の匂いが残っているとか、そういう安易なものじゃない。


 私を代表とせずとも、女とはほんの些細な事柄から他の女を感じとり、女とはこれみよがしにそんな些細な事柄をわざと残していくのだ。


 いや、遺していくのだ。


 犬のマーキングみたいに、彼氏の家に自身を遺していくのだ。


 そういうのが五種類。


 私は誰の代わりだったのだろうか?


 それとも他の五種類が私の代わりだったのだろうか?


 いや、私たち、六種類はそれぞれの誤差を補填しあい代替品として愛されてたのかもしれない。


「私の代わりは他にもいるもの」


 色白の青い髪の少女が無表情にそう液晶モニター内で言う。


 こんな中学生ぐらいの少女も、世の中の理を知っているのか。


 私が彼氏の家を出ていく際に言いたかった言葉を代弁されてしまった。

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