第5話 さくら
僕は、中学校の時に彼女に告白した。
彼が好きだった、彼女に。
答えはもちろん、NOだった。ロクに話した事がないからだそうだ。
僕は、ずっと彼女が好きだった。
彼が彼女を好きになったあの夕方、夕陽。僕も彼女を好きになった。
だから知っていた、彼女が彼を好きである事を。
あの日、僕は焦っていたんだ。
クラスの皆が、誰も彼も付き合いだしていた。
だから、彼女に告白した。彼女が彼と付き合う前に。
結局はフラれたけど、彼と彼女は付き合わなかった。
僕は、喜んだ。彼女を奪われなかった事を。
何だかそれは不純な気がして、彼女を見つけて謝った。
そんな淡い恋心は、段々と薄れていった。
消えてしまった。と、思っていった。が、そんなことはなかった。
20歳になって彼と彼女は、運命的な再会をした。
運命は、皮肉なものだ。僕だって5年ぶりの再会だった。ただの成人式。
運命なんてクソ食らえだ。
彼と彼女は付き合う。僕の燻っていたままの恋心は消えずにいた。
いつまでたっても消えはしない。
僕の中の感情は、ある形となって変貌した。
嫉妬、だ。
僕は、2人を殺す計画を考えた。
彼から聞いた別れ話なんて、どうでもいい。
僕の、僕の生きるこの世界において最早彼と彼女の事柄に関わる事自体が苦痛なのだ。
ならば、僕がやるべき事は1つだ。僕が、この手で彼と彼女の存在を抹消すればいい。
至って単純な話だ。シンプルで簡単な答えだ。
シンプルで簡単な答え。それは僕が殺人を行動に移す、という事ではなかった。
僕は、彼と彼女の運命に関わる事が出来ない。出来なかった。
ずっと昔から。あの小学校の夕方から。
僕は、彼と彼女の運命と共に存在する事を拒まれた。
次の日の朝。僕はニュースを見て驚いた。
彼と彼女の名前を見たからだ。
彼女が彼を殺害した。彼女は彼を桜の木の下に埋めようとしていたらしい。
彼女はきっと彼を愛していたのだ。彼が望むように愛し合えていたのだろう。
だがそれは、未来の予想図より遥かに形のずれてしまった愛。
暫くして、僕は笑った。彼と彼女に関わる事の出来なかった惨めな自分を。
複雑で
歪で
単純で
綺麗な
愛の形を。
僕は笑った。
笑うしか出来ないから。
『とってつけ』、完。
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