第10話 さくら


 寝室に入る。


 すっかり暗くなった部屋。


 手探りで、電灯のスイッチを探す。


 スイッチをONに切り換える。


 すっかり、明るくなった部屋。


 窓際に置きっぱなしの煙草とライターと灰皿にした缶。


 見つけたので取りにいこうとする。


 足に、何かがぶつかる。


 ……なんだろう?


 サッカーボールでも置いていただろうか?


 そんなわけはない。


 私は、スポーツが苦手だ。


 観るのもやるのも、関わる事が苦手だ。


 じゃあ、何か?


 私は、答えを知っている。


 知っていて、すっかりと、忘れていた。


 本当に、困ったことを後回しにするのは良くないクセだ。









 足下には、男の死体があった。


 私が、運命を感じた男の死体。


 私との、運命を切り捨てた男の死体。


 サッカーボールだなんて言って、ゴメンナサイ。


 ……謝るのは、そこじゃないか。


 昨日殺したばかりのピチピチの死体だが、私のボケにはさすがにツッコミを入れてくれるわけがない。


 卒業式の日に遠くで見つめることしか出来なかったモテ男君と、同窓会で久々にあって成り行きで付き合うことになった。


 私は運命だとそれを感じ彼を心底愛した。結婚という未来を信じていた。


 しかし、彼にとって女なんてすぐ乗り換えるモノだったようだ。


 飽きればポイ、飽きればポイ。


 だから、私も飽きられてポイされた。


 それで終わる話、だった。


 彼が、いけない。


 事の結末を迎えた要因は、彼の失敗だ。


 何も、私の自宅でコトが終わってから話を切り出さなくても良かったのだ。


 お前は身体だけの女だと、ハッキリと言われたようで惨めにも程がある。


 むしゃくしゃして殺った、反省はしてる。


 突発的過ぎた。


 無茶苦茶にして殺りたかった、反省はしていない。


 殺す権利はあると思う。


 こんな男、死んでいいと思う。


 さて、また考え事を始めよう。


 今度は、結構お腹が空きそうな計画性をはらんだ考え事だ。


 まずは、死体を何処かにやろう。


 隠す云々より目障りだ。


 桜の木の下には、死体を埋めてあるなんて話がある。死体から栄養を吸って、妖艶な美しさを出すのだとか。


 よし、桜の木の下に決定。


 あとは……。




 どうも、また色々と考えなければいけないようだ。


 とりあえず、煙草を一本吸おう。


 くだらない運命には、それから向き合えばいい。


 充実した休みの日だ。


 今日は、仕事をサボった日。


 私を、サボらない日。










『ありあわせ』、完。

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