第8話 ジャガイモ軍団
とりあえず、今日の晩御飯はカルパッチョだ。近所のスーパーに、こんなオシャレな名前の料理があるとは驚きだ。
スーパーに行くと、色々と試してみたい料理を思い出した。
家には、何冊か料理本がある。その中で、美味しそうで簡単に作れそうな料理をいくつか覚えている。そうやって、その料理用の食材を手に取り買い物カゴに入れた。
あと、カレーと肉じゃがという定番料理も勉強中なので食材を揃えてみた。ジャガイモがやたらとカゴの中に入っていて、自分がかなりの芋好きに思えてきた。
が、ジャガイモ軍団の総重量を舐めきっていた事に帰りに気づき、今は芋が嫌いになりそうだ。途中で、袋が破けるんじゃないかと思った。途中で、腕が引きちぎれるんじゃないかと思った。
途中で、こんなことでマッチョになるとしたら嫌だなと思った。
買い物袋から取り出して、冷蔵庫に入れる。野菜室に、ジャガイモが大量に転がる。
ふふ、この憎きジャガイモ達を如何に料理してやろうかしら?
ま、カレーと肉じゃがしか知らないのだけどね。
ま、その二つもロクに作ったことないんだけどね。
大量に転がるジャガイモを見て、一つ間違いに気づく。
ああ、これはもっと早く気づくべきだった。
あまりに今さら、あまりにも今さらな話だ。
ああ、料理本を見直す必要もない。買ってる途中に気づくべきだった。
とても単純な見落としで、とても単純な勘違いだ。
これ、一人前分じゃない。多分あの料理本、家庭向けの本だ。
テレビとかの三分で作っちゃうようなやつだと、一人前だからそう思い込んでいた。
これじゃカレーを一つ作っただけで何日分だ、って話だ。
肉じゃが一つ作っただけで何日分だ、って話だ。
しかも、太るのを気にして肉少なめに買ったから肉じゃがでもないし。ジャガイモを煮た物なだけになるし。
それは、美味しそうだけど。
それは、確かに美味しそうだけども。
なんたる、失敗だ。
なんたる、ジャガイモ軍団の侵略だ。
ジャガイモって、すぐ痛むのかな? そうだとしたら、処理できそうにないなぁ。やっぱり、この凸凹なところから芽が出てきたりするんだろうか。
……困ったな。
ジャガイモダイエットとか流行ってなかったっけ? 流行ってたら、友達にお裾分けするんだけど。
いや、お裾分けすればいいんだ。ゴメン、ジャガイモ買いすぎて食べきれないからお裾けするね、って。
本当の事なだけに、馬鹿さ加減がひどいな私。
もういい、ジャガイモの事は後で考えよう。ジャガイモとの闘い方なんて、いくらでもあるわけで。
なんなら、インターネットで検索してみて美味しそうなジャガイモ料理法を探せば良いわけだし。
インターネットで、なんでも見つかる素晴らしい時代だ。探そうと思えば何だって探すことができる時代だ。
情報は、驚く程に氾濫し浮遊し埋没している。情報化社会に起きる様々な事を、誰が予想できただろうか。
今一分一秒の私のプライベートや個人情報を誰かに監視、盗撮されてないと誰が否定できるだろうか。
デジタルになった現代社会は、0と1の羅列に束縛され自由と偽装した規則の中に埋もれている。情報を求めることが唯一の息継ぎで、情報中毒に人々は陥っている。
若者は携帯電話を手離す事が出来ず、人との繋がりを欠かす事が出来ずにいる。
他人の情報を得る事、他人に自分の情報を与える事でしか、自分という物を、形成、維持する事ができない。そうした行為を著しく失敗すれば、不安定な自己は簡単に崩壊し絶命へと陥ってしまう。
生きていようと、死んでるように自分の世界に閉じこもり日々を消化する者。
死ぬことにより、生を再び勝ち得ようとする者。
大人もそれと変わりなく、情報ツールが携帯電話でないだけに過ぎない。
新聞やテレビに踊らされ、真偽確かでない情報を絶対に受け取り、受け入れたまま講釈をたれる。
正確な真偽など、この情報が溢れかえった世界で確かめる方法などないのかもしれない。
個人個人が各々のルールで、各々の基準で真偽を決める。
そうやって、この世界を正しく生きなければならないのだ。
ベーコンエッグがどれ程世の中で絶賛されようが、私の口には合わないはずだ。
それが、真実だ。
偽りのない、真実だ。
また何の話をしてるか、よくわからなくなった。検索してみようか。
私は一体何の話を考えながら、今日という日の残り時間を過ごせばいいのか。
できれば、明るい話題がいいな。
できれば、お腹が空くような話題がいいな。
カルパッチョはナマ物だ。
今日中に食べなければならない。
ジャガイモ軍団に奮闘した買い物も、苦い味のした焦げた食パンを消化しきれなかったようだ。
満腹中枢は、まだ塩辛い卵焼きを無い物として判断してくれないようだ。
ああ、遅い時間の晩御飯は太ってしまうというのに。
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