第7話 曖昧になる普段
晩御飯と次の休みまでの食材を買い込んだら、結構な買い物になった。四人家族の、二日分ぐらいの買い物量だ。両手に二袋ずつパンパンに入れて、帰ってくる事になった。
昔々、母親の買い物を手伝った記憶が蘇る。母親は毎日の出来事なので、当たり前の様に重たい買い物袋を持っていたっけ。
お米10kgなんて今持っても重いもんな。そういえば、お米あったっけ?
あーだこーだと悩んで買い物をして、帰宅して時計を見たら夕方の五時を回っていた。
まだ外は、夕陽が差し始めたばかりだ。すっかり暗くなるのも遅くなった。
それでも三月も中旬を過ぎようというのに、外はまだ寒く冷気は部屋の中にもこもる。
寝室に戻ってみると窓が昼間に開けたままだった。なんたる無用心か。
部屋は冷蔵庫の様に寒くなっていて、私は直ぐ様窓を閉めカーテンを閉めた。
寝ぼけてるというより、ボケているんじゃないか。普段の私は、こうじゃないのに。
いや、普段の私がこうなのか。
仕事とプライベートの比率が、普段の私というものをわからなくしている。
普段の私というものは、比率的に仕事している時の私の事じゃないだろうか?
仕事している時の私の方が、今の生活の中でもっとも時間を持っている。
プライベートの私など今や存在するかもあやふやで、今日のように無理矢理手に入れた休みの時でしか時間を持つことができずにいる。
仕事をし、仕事の為の食事をし、仕事の為の睡眠を取り、仕事の為に健康を維持し、全てを仕事に費やす。
まるで過労死へと向かう企業戦士のようだ。
OLという言わば死語も、死に逝く企業戦士な私には相応しいのかもしれない。
しかし、そうやって全てを仕事に費やす私も簡単に仕事を休めたりして。本当は、会社に必要とされてないのかも知れない。
私なんかは単なる労働力の一つに過ぎず、会社を動かすための代わりがいくらでもきく歯車の一つ。
私はいつだって互いを必要としてると盲信したまま生きて、一方通行な恋をしてるのかもしれない。
恋愛も仕事も。僅かに振り向かれた事に浮かれ、独り踊り続けてるだけに過ぎない。
そう考えると、非常に虚しくなってきた。
明日から、まともに仕事なんか出来るのだろうか?
まともに男性と話が出来るのだろうか?
何もかもに、ガッカリだ。何よりまた、暗い事ばかり考える自分にガッカリだ。
過去の思い出も、現在の確認も、暗くなる話ばかりだ。
何気無くサボった今日という日は、こうやって精神的にまいってしまってる私が無意識的に警告しての事だったのだろうか?
やはり人間、何より自分が第一でそういう本能的な部分が勝手に働くもんなのだろう。
風邪などと嘘をついてみたが、あながち嘘でもなかった。精神的に風邪を引いてしまっているのだ。
鼻水や咳のように弱音や愚痴、ネガティブな思考が溢れんばかりに吐き出されている。
嘘から出た、真実。
人間関係を築く上で多少の嘘も必要だと私は思っているが、まさか自分自身を形成するために嘘が必要になるとは思わなかった。
二十五年も生きてたった一日仕事をサボったぐらいで、今日は勉強になることが多い。
サボるという事も、本当は大事なのかもしれない。
とはいえ、サボりすぎれば単なるニートだ。さじ加減が必要なのだろう。
私が苦手な、さじ加減。
寝室で考え事に浸っていて、ふと思い出した事がある。台所に買ってきた荷物を、ただ置きっぱなしにしたままだ。
今日は、何かと考え浸ってる事が多い。
普段の仕事中に、これほど思考があちこちと飛ぶことがないからだろう。
普段の私、仕事中の私は仕事に対してまっすぐ向き合うように構えている。そういう心構えでいるように、尊敬する先輩に教わったからだ。
だから、仕事に対して二、三通りの考え方をしたとしても線を外れる事はない。
今日は、外れっぱなしだ。
これはきっと、仕事をしてる私に対しての反発から形成されているのだろう。
だろう、と予想気味なのは本来の私というものがわからないからだ。
本来の私とは、一体どんな存在だったのか?
見た目の美味しそうな感じで勢いで買った、カルパッチョとはどこの国の料理なのか?
サラダの上に魚の切り身が乗ってあるだけの言えばフィッシュサラダなんだけど、何処かのお店で食べたような記憶のある名前だったのがより興味を引いた。
やっぱり、フランス料理とかだろうか? 何だか、見た目がそれっぽい。
韓国料理、ではないだろう。アジアな感じがしない。
とかいって、ベトナム料理とか。でも、ベトナム料理は辛そうなイメージ出しなぁ。
ん、買い物袋からカルパッチョを手に取った時から、カルパッチョの話になってしまった。
何の話をしてたんだっけ?
……何でもいいか。
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