第4話 卒業

 中学生達の騒音が、まだ聞こえる。隣家の住人は、何とも思わないのだろうか。


 やはり、クレームを出すべきだろうか。


 卒業式とはいえ、近所迷惑は考えてほしい。


 彼らはこれから大人になっていくのだから、社会的マナーというものを身につけるべきだ。というか、家族同伴なんだから親が騒がしくするのを止めればいいのに。


 時折鳴る、ポンッという音が何より腹が立つ。卒業証書を入れるための筒の蓋部分を抜く音だ。


 確かに私も中学生の時にポンッポンッと無邪気に遊んだものだが、それとは無関係になった今は何とも腹の立つ間の抜けた音に聞こえる。


 てめえら、ポンッポンッうるせぇ! と、大声で怒鳴れたらどれ程気持ちの良いものか。


 それをやった後、この二十五には見えない無惨な私は、騒音オバサンと呼ばれ近所の子供から恐れられるのだろうか。


 ……嫌だなぁ、騒音オバサン。


 ……布団叩き何処にやったっけ?


 しかし、かれこれ五分は経っている。私の今日一本目の煙草が短くなっている。それなのに、中学生達の流れは止まらない。


 全卒業生が、皆同じ方向に帰宅してるのだろうか? それとも、最近の卒業式は凱旋パレードをするようになったのだろうか?


 ウイニングラン?


 私はマンションの五階から愚痴を撒き散らさずに、花吹雪を散らさなければならないのか?


 君達は祝われてるが、それは確実に良いことばかりがあるという事実ではないのだよ。ふふ、大人の階段を登るのはいいが下る事は出来ないのだ。いつしか下りたいと願っても下れないのだ。


 特に女子!


 特にお肌!


 と、こんな上から見下す様に中学生を見ても何にも意味がないんだということはわかってるんだよ。この肌が昔の様に可愛くないのは、年齢というより普段の手抜きが原因なわけだし。


 しかし、なかなかどうして窓に映る私は酷いものだ。とりあえず、顔を洗おう。


 お腹も空いたしご飯を食べよう。


 ちょうしょ…うわ、時計を見たらすっかり昼過ぎだ。ち、昼食を食べよう。


 その前に、もう一本煙草を吸おう。口にくわえてライターで火をつける。


 そういえば、昨日私も卒業を誓ったんだった。


 春になったら煙草を卒業しよう、と。卒業シーズンに合わせてそう誓ったんだった。


 まだ三月、窓からは冬の様に冷気が入り込んでくる。


 春になったら煙草を卒業しよう。


 しかし、まだ春じゃない。


 ああ、煙草が旨い。

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