第2話:カレンの冒険者になった理由

「私が「重戦士」なのが何がいけないってのよ!?私だって好きで「重戦士」やってるんじゃないっての!!?」


カレンは高ランクの魔物が大量にひしめく「死の森」と呼ばれて恐れられる森に入り、向かってくる魔物達を大剣でバッサバッサと斬り倒していた。

カレンは今後どうするかを考えていたら、ふと足が自然と「死の森」へと向かっていた。まるで、何かを決断したかのように……


「はぁ……!?はぁ……!?」


大量の魔物をカレンが倒した成果なのか、いつの間にかカレンの周りに魔物の気配はなくなり、カレンは荒い深呼吸を繰り返す。


「お母さん……私は……」



カレンが冒険者になったのは母親の為だった。カレンの家族は物心ついた時から母親しかいなかった。父親はカレンが産まれてすぐに別の女を作って出て行ったと聞いている。なので、カレンの母親は女手ひとつでカレンを育てていた。

しかし、元々身体が弱いカレンの母親は、なかなか思うように働けず、ついには、カレンが15歳になった時に倒れてしまった。

故に、カレンは自分が15歳になったのをきっかけに冒険者ギルドへと足を運んだ。15歳になれば冒険者適正職業を鑑定出来、適正職業を見出せたらすぐにでも冒険者の仲間入りが出来る。危険な仕事ではあるが、稼ぎがある冒険者は、母親の治療費を稼ぐのには最適だった。

そして、カレンは冒険者適正職業を鑑定してもらい、その結果が「重戦士」だった。冒険者になれると喜び、「重戦士」が大剣などの大型武器を扱える職業である事以外ほぼ聞き流したカレンは、すぐに家に帰って母親に報告した。

最初、カレンの母親はカレンが冒険者になるのに反対だった。娘が危険を犯してまで自分の為に働いてほしくないと……しかし、カレンの決意が固いものだと分かると


「それなら……私の為でなく、あなたの為に……あなたが武器を振るう理由を必ず見つけなさい……」


カレンの母親はそれだけ言うと、娘の為と密かに貯金していたお金をカレンに渡した。それでカレンの武器を買いなさいと言って……カレンは涙を流し感謝の言葉を述べ、カレンはそのお金で大剣を購入した。それが今も使っている大剣である。



カレンは冒険者になって、徐々にその実力を発揮し、お金も稼いで母親の為の治療費を獲得していった。

だが、結局カレンの母親は2年前に病気で亡くなった……



後に、カレンの母親を担当していた医師によると、母親が患っていた病は治す事が出来ない不治の病だったらしく、治療はあくまで延命措置でしかなかったと言う。その事をカレンの母親は知っていたが、娘には黙っていてほしいと医師に言ったという。自分という存在が、娘が生きる意味になっているのを分かっていたから……娘には自分とは違い健康体なのだなら、自分の分まで生きてほしいと願って……



それからのカレンは、ただ本当に義務感で闇雲に大剣を振るっていた。もう、カレンには剣を振るう理由が見出せずにいた。


「もしかしたら……その辺も追放された理由かもね……」


思わず自嘲気味に笑うカレン。カレンは現在22歳。「重戦士」に選ばれたとは言え、カレンは「重戦士」の特徴的な筋骨隆々な身体つきでは、普通に女性らしい魅惑的な身体つきをしていて、初めて見た人はカレンを「重戦士」だなんて思わないだろう。どこか別の土地に行き、冒険者を辞め、男性を探せば引く手数多だろうから、普通の女性が送る生活をすることは可能だろう。しかし……


「お母さん……もう……いいよね……」


カレンはもう……生きる気力を無くしていた。その髪と同じく真紅の瞳からは光が完全に失われていた。

そんなカレンの想いを悟ったかのように、一匹の狼型の魔物が姿を現わす。もう、カレンには先程の八つ当たりも同然のマネをする気は失せていた。カレンに徐々に迫ってくる魔物……


が、そんな時……


「きゃあぁぁぁぁぁ〜ーーーーーーーー!!!!?」


「えっ!!?」


女性の悲鳴がカレンの耳に届いた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る