11 花森神社

 花森神社


 晴が花森神社にやってくると(そこには、とても懐かしい風景が広がっていた。もうずいぶんとこの神社にはやってきてなかったけど、当時のままの、晴の知っている花森神社の風景が、今もこの場所にはあった)そこには、……雨野天がいた。


 天は花森神社の古い小さな本殿の階段のところに座って、そこで空から降り続いている雨の風景をぼんやりと一人で見ていた。


 晴は息を整えてから、そんな天のいるところまで、ゆっくりと移動をした。雨が降っているせいなのか、それともなにかの考えごとや空想にでもふけっているのか、天は晴の存在にはちっとも気がついていなかった。


「よう」

 晴はいう。

「え?」

 一瞬、びくっとしたあとで、天は晴の顔を見る。

 晴は天のすぐ近くにいた。

 そんな晴のこと見て、天はすごく驚いた顔をした。

「三船くん。どうして……」(この場所にいるの? と天は言おうとしたのだと思う)

「どうしてって、そりゃ、お前が逃げるからだよ」

 にっこりと笑って晴は言った。

(それは天を安心させるための笑顔だった)


 すると、少しの間、きょとんとした顔をしていた天は、……それから少しして、「うん。そうだね」と言って、にっこりと笑って晴を見た。


 花森神社の周囲では、今もまだ、大雨が降り続いている。

 その、ざーっと言う雨の音を聞きながら、晴は髪の毛についた雨つぶを手で拭ってから、天の座っている神社の階段の反対側のところに座った。(二人の今の距離は、ちょうど、それくらいなのだ、と晴は判断したのだった)


 それから二人は、しばらくの間、ざーっという雨の音にだけ、その耳を傾けていた。

 そして、まずはじめに口を開いたのは、雨野天のほうだった。

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