10 雨の中で

 雨の中で


 晴の走って行った先、花森の商店街のところに天の姿はなかった。(少なくとも、晴には天の姿は見つけられなかった)

 晴はそれでも商店街の周囲を走って天の姿を探してみた。

 でも、天はどこにもいなかった。

 まるで天という女の子が、初めからこの世界にいなかったかのように、雨野天の残した痕跡を見つけることが三船晴にはできなかった。


 はぁはぁ、と息を切らせて、電信柱のところで立ち止まった晴はふと空を見上げた。

 それは晴の頬に小さな雨粒が一つ、空の上からこぼれ落ちてきたからだった。

 それは、……雨だった。

(……冷たい、冷たい夏の雨だった)

 あの日と同じように、その雨は、一度降り出すとすぐに土砂降りの大雨になった。晴は近くにあったお店の雨宿りができる屋根の下の場所に移動をして、その雨を一時的に凌いだ。

 それから晴はさっき天が傘を持っていなかったことを思い出した。

 そしてそれから、初めて会ったときに、こんな風に雨の中で泣いている雨野天のことを、……思った。


 晴は、誰かが泣いている姿を見ることがあまり好きではなかった。

 晴はもう、高校二年生なので、人生にはいろんな辛いことがあるとわかってはいたのだけど、でも、それでもできるだけ、……自分の周囲にいる人たちには笑っていて欲しいと願っていた。(それが世界中の人たちに、なら最高だけど、そんな夢のようなことではなくて、まずは自分の周囲の世界のことを考えることで、今の晴には精一杯だった)

 

 もしかしたら天はこの雨の中でまたあの日のように泣いているかもしれないと晴は思った。

(しかも今度は、その泣いている原因を作ったのは、晴自身だった)


 晴は、商店街の近くにある花森神社に行ってみようと思った。

 晴がそう思ったのは、花森神社の境内なら、人目につかずに泣くことができるし、雨もしのげるし、それになりより、……さっき、天を追いかけているときに、小学生のころの自分と、幸の思い出を、なぜか突然、ふと思い出したからだった。(その幸せな思い出の残像が、まだ晴の中には残っていた)


「よし」

 そう言って、晴は雨の中を(ずぶ濡れになって)天を探して駆け出して行った。

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