「ねえ、晴。学食にパン買いに行こうよ」

「おう。わかった」

 幸にそう誘われて、晴は幸と一緒に花森高校の一階にある学食まで移動をした。(二人のいる二年生の教室は学校の二階にあった)


 そこで晴は卵サンドを買い、幸は焼きそばパンを買った。(飲み物は二人ともパックのミルクコーヒーだった)


 それから晴と幸はせっかくこんなにも空が青く晴れ渡っているのだから、と言う理由で、屋上まで移動をして、そこでお昼ご飯を食べることにした。

 花森高校の屋上には大きな転落防止用の黄緑色のフェンスと、それから運動のできるバスケットボールのコーナーがあった。(ベンチもいくつかあった)

 晴と幸はそこにある白いベンチに座って、青色の空と大きな夏の真っ白な入道雲を見ながらパンを食べた。(パンはすごく美味しかった)


「うーん。いい天気だね。今日も」明るい笑顔をして、幸は言った。

「おお。本当にな」晴は言う。

「この間の、『突然のすごい強い雨の日』が嘘みたいだね」幸は言う。幸の目は屋上でバスケットボールをしている数人の生徒の動きに向けられている。

「……本当だな」

 パンを食べて、晴れは言う。


 斎藤幸の言っている、この間の、突然のすごい強い雨の日、というのは、晴と天が初めて出会った日のことだった。

 その日のことを、(あのときの雨野天の美しい涙を)晴は今も、まるでついさっき起こった出来事のように鮮明に覚えていた。

 ……あれは空想の出来事じゃない。嘘でも、妄想でもない。本当に僕たちの間で起こった出来事だった。

 でも……。

 せっかくの青空を見ないでじっと下を向いて、屋上の黄緑色の床を見ながら晴は思う。

 ……雨野天は、あのときの僕のことをまるで覚えていないのかもしれない。


 天が花森高校に転校してきてから、今日で一週間がたった。


 その間、何度となく二人はお互いの近くを通り過ぎたり、本当に肩がぶつかるくらい、お互いに近い場所に立っていたこともあった。(運動場での整列とか、体育館での朝会とか、放課後の図書室とか、あるいは、偶然すれ違った廊下の通路や、今、幸と二人で上ってきた、学校の階段の途中などで……)


 でも、そんなチャンスが何度もあったのに、天野天は三船晴に一言も、「あの、もしかして、あなたはあの雨の日に私の声をかけてくれた男の子、ですよね?」と言って、声をかけてはこなかった。

 今のところ、晴は天にとって、ただの風景にしか過ぎない存在だったのだ。

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