だけど、まあ、それはそれで別によかった。

 もちろん、覚えていてくれていたほうが嬉しかったのだけど、覚えていないのなら、それはそれで別にいいと晴は思った。(『僕たちは運命の出会いをしたのではなくて、ただの偶然の出会いをしたに過ぎない』のだとしても、それでよかった)

 

 だけど……、晴には一つだけ、どうしても気になっていることがあった。


 それは、天の流した涙だった。


 花森高校にいる天は、ずっと楽しそうに笑っていて、すごく幸せそうで、なんだかまるで、この世界に(少なくとも天の世界の中には)悲しいことなんてちっとも存在していないのかのように、天はずっと明るい笑顔で笑っていた。


 それがすごく不思議だった。

 それがひどく、晴の心を、苦しくさせた。


 ……君は、本当は泣きたいんじゃないの? あの雨の日みたいに、ずっと、どこかで、君はああして一人で、泣いていたんじゃないのかな?


 と、そんなことを天に聞きたいと晴は思っていたのだった。(そして、もし可能なら、そんな天の悲しみの相談に乗ってあげたいと思っていた)


「こら、また、私が隣にいあるのに、誰かほかの人のこと考えている。どうせまた天野さんでしょ?」晴の頭を手でぱんと叩きながら、幸が言う。

 

 幸の言うことは当たっていたから、晴はなにも幸に言い返すことができなかった。

 晴がどうしたものか、と考えながら、怒っている幸から顔をそらして、青色の晴れた夏の空に目を向けていると、遠くで、きーんこーんかーんこーん、とお昼休みの終わりを告げる鐘の音が鳴った。


「お昼終わりだな。教室に戻ろうぜ」晴は言った。

「……わかった」なんだか、まだ納得していないような顔をして、斎藤幸がそう言った。

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