2 雨野天(という名前の女の子)

 雨野天(という名前の女の子)


「初めまして。三つ森(みつもり)町から引越しをしてきたました、雨野天です。みなさん今日からよろしくお願いします」

 そう言って、自分の自己紹介をして教室のみんなに頭を下げた天が頭をあげると、おお、と教室の中に静かなどよめきが走った。

 その理由は、天の美しさにあった。

 ……天は、本当に綺麗な女の子だった。

(どよめきをあげたのは男子だけではない。女子も同じだった)


 黒くて長い髪をストレートに流して、整った顔を立ちをして、透き通るような白い肌をしていた。(いわゆる、高嶺の花のようなお嬢様と言った感じの見た目をしていた)

 その割に、天の性格は清楚で、可憐で、無垢で、清らかなお嬢様、というわけではなくて、どこにでもいる普通の明るい十七歳の高校二年生の女の子そのもの、と言った感じだった。

 最初は少し距離をとっていた教室の女子たちからも、天の評判は上々だった。(それだけ天があっけらかんとして、天真爛漫で、人に対して抵抗を持たない性格をしていたからだった。それと、すぐに噂を聞きつけて行動を開始した花森高校のたくさんの男子からの告白を全部、天が断っていることも、その評判の一つの要因になっていたのかもしれない)


 晴は、そんな教室の女子たちと明るい顔と声で、談笑する天の姿を見て、(晴は窓際の後ろの席。天は廊下側の前のほうの席だった。残念なことに運命の再会をした二人の席は、たまたま偶然、隣同士になったりはしなかった)


「こら、なに天野さんのことばっかり見ているのよ。いやらしい」

 ぱん、と丸めたノートで頭を叩かれながら、「痛いな。なにするんだよ」と言った晴が自分の隣の席を見ると、そこには一人の女子生徒がいた。

 斎藤幸。

 幸は、晴の幼馴染の、ずっと一緒に花森町の中で育ってきた、現在のところ、晴と一番距離の近いところにいる(切符のいい、爽やかな性格をした)女の子だった。


「お、やっと私を見た。私のこと、ちゃんと思い出してくれた?」

 そう言って、いつものようににっこりと笑って、斎藤幸は三船晴に言った。晴の視界の中で、窓から吹き込む夏の気持ちのいい風に、幸の長い黒髪がゆっくりと揺れていた。

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