天 てん

雨世界

1 私と恋をしようよ。

 天 てん


 本編


 私と恋をしようよ。


 三船晴が雨野天と出会ったのは、突然の雨が降った夏の日だった。場所は東京の花森町の商店街の一角。

 傘を持っていなかった晴は突然の雨にうたれて学校カバンを傘の代わりにしながら、花森商店街の中を足早に走っていた。

 その際、ふと前を見ると、雨の中で傘もささないでぼんやりと(ずぶ濡れになって)雨降りの空を見ている少女がいた。

 その子は、とても綺麗な女の子だった。

 長い黒髪をした、学生服をきた女の子。年は晴と同じくらい。たぶん十六歳か、十七歳くらいだと思う。

「そんなところでぼんやりしてると、夏とはいえ、風邪ひいちゃうよ」

 晴はその少女にそう言った。

 すると少女はゆっくりと晴れのほうを振り向いて、自分に声をかけてきた晴のことをじっと見つめた。

 ……その少女は、雨の中で泣いていた。

 雨粒に混じって、確かに一筋の涙が、その少女の瞳から零れ落ちるところを、晴はその目で目撃した。

「……どうも、ありがとう」

 と少女は小さな声で言った。

 それから少女はゆっくりと歩き出して、雨の中を歩いて、晴の視界の中からゆっくりと、(まるで降り続ける雨の中に消えていくように)いなくなった。


 その少女が見えなくなるまで、晴はぼんやりと(まるで先ほどの雨降りの空を見ていた少女のように)その少女の後ろ姿を、雨の中でずっと、見ていた。


 それが三船晴と雨野天の初めての出会いだった。

 ……名前も聞けなかったな。もう二度と会えないかも。


 そんなことを晴は思った。

 でも、二人の再会はそれからすぐに訪れた。

 晴の通っている花森高校の、それも晴の所属している教室に、次の日、雨野天が転校してきたからだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る