第16話 先輩と好きな人と
最大のライバルと認識した清水先輩。あれから私の前に現れることが多くなった。明らかに幸子さんにアピールをしているように思う。それを、私が気にしているから尚更そう思うのかもしれないけれど、私にとっては気が気ではないわけで、幸子さんが今はそうは思ってないかもしれないけれど、いずれ清水先輩を好きになってしまうのではないのか、幸子さんが他の人を好きになるなんて考えてしまうと耐えられそうにない。清水先輩は、面倒な人ではあるけれど、悔しいけれど決して悪い人ではないということがわかっているからそれがありえないということもないと思うからこそ不安で仕方がないんだ。
清水先輩は後輩思いである。そして仕事はとてもできる。上司にもかなり頼りにされていて女性からの評価も高い。そして、イケメンという、あの面倒なところがなければかなりの優良物件であることは分かってしまっている。だから、私は尚更自信がなくなってしまう。私の幸子さんへの想いは負ける気はしないけれど、他に何がある?幸子さんにとってはハズレ物件と言ってもいいのではないのか。仕事もそこそこ、容姿は普通、頼りにはできないこの私のスペックで清水先輩にはとてもではないけれど敵うとは思えない。幸子さんが清水先輩を好きになってしまうのは時間の問題のように思えてならない。
「はぁ・・・」
また清水先輩からメッセージが届いていた。今日飲みに行くぞというお誘いであり、それは幸子さんのことを聞かれるという最近よくあるイベント。断るのは後が面倒だから、行かないわけにはいかない為、このお誘いを私は3回ほど受けていた。そろそろ先輩は行動に出る頃ではないだろうか。もしかしたら、幸子さんを直接誘っているかもしれない。私はまだ早いですよと先輩には言っている。誘うなとは言ってない。というか言えない。それは私が言うことではないし、幸子さんが誘われて考えることだと分かっているから。でも、それを応援することなんてできないから先輩には幸子さんを誘わないように曖昧にまだじゃないですか?というアドバイスじゃないけれど、私の都合で返事をしている現状である。こちらは気がきではない現状に先輩は気づいているのだろうか。先輩は感が鋭いところがあって、私のウソがすぐにバレてしまうからそれも不安要素になってしまっている。
「上野さん、今日ご飯どうですか?」
「すみません、今日は先約が入ってしまってて」
「そうですか。じゃあまた今度」
幸子さんのお誘いも断ることになってしまって。幸子さん残念そうな顔してたな。もう何なんだろう。幸子さん断って先輩と飲みに行くとかどっちが優先事項なんだと先輩にも腹が立ってきてしまう始末。
「先輩のせいでお誘い断ったんですよ!」
「なになにじゃあ一緒に来ればよかったじゃん」
「いや・・・それは無理と言いますか」
酔った勢いで悪態をつけば一緒に来ても良かったのにという先輩に私は動揺してしまった。先輩と行きつけの居酒屋でのことである。
「えー誘ってくれたらよかったのに」
「・・・じゃあ先輩が誘ったらいいじゃないですか!」
「え・・・いいの?」
驚いたように私に聞く先輩に私は黙ってしまった。先輩は私の許可が出ないと幸子さんを誘えなかったということだろうか。それって私の許可いります?いや忠実に守ってくれてたのはこちらとしても決して悪くは思わないのだけど、それを本当にしていてくれたことに私は驚いてしまった。
「そ、それは先輩の考えることでしょう」
「そっか。わかった今度誘ってみるわ」
「あ、はい・・・」
幸子さんを誘うことを先輩が決意してしまった。話の流れでそうなってしまったのは私の落ち度だろう。けど、それは本当に先輩が考えることである。けど、やっぱり私は面白くないというかこれは嫉妬だろう。それを押し殺さないといけないけれど、このもやもやを晴らすためにジョッキのビールを胃に押し込んだのだった。
朝目覚めると自分のベッドの上だった。目覚ましのアラームが鳴っている。昨日どうやって帰ってきたのだろうと昨日の記憶がないのに気づく。記憶がないほど昨日は飲んでしまった。気持ちが荒れてしまって飲み過ぎてしまったのだけど、帰る道すら記憶にないのは結構怖い。アラームを止めた。するとメセージが来ていた。
「雅美ちゃん大丈夫?」
幸子さんからこんなメッセージ。はて、私は幸子さんに心配させるようなことをしただろうかと疑問が浮かんで、正直に「何がでしょう?」と送信した。しばらくするとまた返信が。
「昨日結構酔ってたみたいだから。電話してきたの覚えてない?」
え?と思い、履歴を見てみてびっくり。幸子さんに電話をしていた。酔った勢いで電話しているのはどういうことだろう。私昨日何か幸子さんに言ったのだろうか。幸子さんに確かめなければいけないと思い、急いで電話した。
「もしもし」
「あの、幸子さん?」
「うん」
「昨日私何か言いました?私記憶なくて・・・すみません」
「・・・大丈夫なの?」
幸子さんの言葉は心配しているのに声では私を責めているようなそんな声だった。記憶を無くすまで飲んだことを責めているのはわかる。前の出来事から、飲み過ぎないと約束していたのにそれを破ってしまったことを怒ってるんだ。
「約束してたのに、ごめんなさい」
「今どこ?」
「うちです。」
「そう・・・よかった」
「えっと・・・」
「清水さんの家じゃないんだよね?」
「それは、はい」
幸子さんの言わんとすることは分かる。記憶を無くしてまで飲んで酔った勢いでという流れが私の過去にあるから心配してくれていたこと。でも先輩は幸子さんが好きなんだからそんなこと心配しなくてもいいのに。
「先輩は大丈夫ですから」
「でも・・・わからないじゃない?」
「いや、それは大丈夫だと思います」
「・・・清水さんのこと信用してるんだね」
「信用というより、事実と言いますか」
「・・・そっか」
「・・・はい」
なんとも重い空気が流れた。幸子さんとこんなに重い空気になったことはなかった。けど、こんな空気になるのも不思議で。正直幸子さんが今なにを考えてるのかわからなかった。空気が重いのが嫌で、昨日のことを話すことにした。
「先輩が今度幸子さんも誘うと言ってましたよ」
「そう。」
「はい。」
話題を変えたのに会話は終了してしまう。気まずい。これは幸子さんすごく怒ってる。
「あの、私が悪いんです。ごめんなさい。約束破って、幸子さん心配させてしまって。電話までしちゃったんですよね。本当にすみませんでした。」
「うん。・・・雅美ちゃんは悪いけど、本当は悪くないんだよ。こっちこそごめんね」
「うん・・・?」
完全に私が悪いはずなのに幸子さんは私は悪く無いと言う。どういう意味だろう。私は今日の幸子さんがわからない。
「いえ、私が飲み過ぎたのが悪いんです。だから幸子さんが謝るのはおかしいです。」
「雅美ちゃんはやっぱりいい子だね」
「えっと」
「うん。安心したからいいや。また後でね。遅刻しないようにね。」
「はい。ありがとうございます。」
そう言って電話を切った。
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