第10話 お揃いと温泉と

 目的地に着いた私と幸子さんはご飯を食べてから入浴をすることに決めた。温泉の一大イベントを残したままの食事である。後のことを考えると緊張して食事の味がわかるのかさえ不安だ。

 駅を8時過ぎに出た電車は目的地までスムーズに進み余裕をもって来たこともあって一時間以上も空きができてしまった。私と幸子さんはここに到着する前、温泉街である町をぶらぶらと散策した。お土産屋さんに入った私たちは美智子にお土産を買うことにした。会社にはいいややめとこうということになり、他に何か珍しいものはないか探してみた。そこで気になったのが、某有名キャラクターのボールペンである。ご当地それぞれにあると言われるシリーズで、特に珍しいというものではないのかもしれないけれど、どこかに来たら買う定番の品でもあったりする。私はそのボールペンを買うことにした。幸子さんはと言うと、その某キャラクターのシャープペンシルを買うことにしたようだ。そうこうしたうちに時間がいい感じに過ぎて、旅館にチェックインの時間になって今である。


「あのボールペンとシャーペン可愛かったですね。」

「うん。会社で使おうかなって思って。雅美ちゃんもでしょ?」

「ですね。ボールペンだったら使うだろうなと思ったので買いました。」

「私も。じゃあなんかお揃いみたいだね」

「そうですね」


 お揃いのものを持つというのはやはり嬉しいものである。幸子さんのとは少し違うけれど、形はあまりかわらないから傍目からは見分けがつかないものである。

 仕事場で一緒に使うと考えるとやっぱりそれを見るたびに今日のこと思い出すんだろうなと考えると嬉しかったりする。


「それとね、雅美ちゃんの分もこれ買ったんだ良かったら使って」


 そう言って渡されたのは花の香りがする付箋紙のセットだった。


「いいんですか?」

「うん。いい匂いでしょ?可愛くて買っちゃったの」

「ありがとうございます。使いますね。」


 そう言って受け取った付箋紙セットは本当にいい匂いがした。デザインも色々あって可愛い。大事にバックにしまうと、コンコンとノックの音が聞こえた。


「昼食の準備に参りました」


 仲居さんが料理を運んできたようだ。私たちは向かい合って席について次から次へと運ばれる懐石料理に驚いていた。これってすごい。何種類あるの?それぞれに運ばれる料理の種類は優に20種類は超えているように思う。食べても食べても運ばれてくる料理に私たちは「美味しい」と言いながら和気あいあいと食事を楽しんだのである。


「あーもうお腹いっぱい。」

「私もー!それにしてもすごい美味しかったね」

「すごい美味しかったです」


 食事のクオリティーは凄かった。日帰り温泉というのは本当にいいものだと思える料理の数々。参りましたと言いたい。


「ふふ。ご満足いただけたようでよかったです。」

「はい。とても美味しくてまた来たいと思いました。」


 仲居さんがお片付けをしてくれて何もかも至れり尽くせりの食事だった。食事が終わったので腹休めをしたらいよいよ温泉である。もう後戻りはできない一大イベント。意識すると本当にドキドキしてくる。


「じゃあ、雅美ちゃん温泉に行こう」

「は、はい!」

「ふふ。元気いいね。私も楽しみ。」


 そう言って勘違いをされた私。あの、楽しみでないわけではないのだけれど、もう少し意識してほしいとか思ってしまうわけで。でも、幸子さんのことだから、本当に楽しみにしてるんだろうなと思うと私もあまり考えては悪いよねとは思う。


 着替えを用意していざ温泉に入ります。実はここは部屋付きの露天風呂だった事実が部屋に入って発覚している。絶対邪魔する人がいない空間という事。つまり完全な二人っきりな温泉なのである。脱衣所というのは無いわけで、ここのこの場で脱いで入るシステムになっていて、遮るものが皆無だったりする。しゅるしゅると服のこすれる音が聞こえたかと思うと早速脱ぎ始めている幸子さん。いや、まだ心の準備が!と言うことなんてできそうにない。


「浴衣着る?雅美ちゃん」

「え、えっと、じゃあ・・・」

「じゃあ、ここ置くね」


 そう言って私の浴衣の準備をしてくれてた幸子さんはなんとブラジャーとショーツという下着姿だったものだから、もう本当に目のやり場に困ってしまう。

 その後も何のためらいもなく下着を脱いじゃう幸子さんは先行くねと言って露天風呂の方へ。めちゃくちゃ綺麗な身体だというのはしっかりと目に焼き付けた。でも、これって幸子さんが先に入ってるってことは私が後から登場ということであり、私の裸をバッチリ見られちゃうってことでもあるのだけど。幸子さんの裸を邪な目で見ていた自分が悪いのは確かだ。下着を外していざ幸子さんが待つ露天風呂へ。


「遅いよー?」

「あははごめんなさい。」


 そう言って体をさっと流して幸子さんの横のお湯へお邪魔する。緊張するけれど、ドキドキするけれど、温泉って気持ちいい。


「気持ちいいわー。」

「なんか幸子さんおばさんみたいですよ?」

「なにをー!?」

「声だけ聴くと温泉に入ってるおばさんかと思いきや、声の主は美人さんなんて」

「もーう雅美ちゃん!雅美ちゃんにおばさんって言われるとショックなんですけど」

「いや、そういう意味じゃないんですよ?ただ、声だけ聴くとってことです。」

「むーじゃあ許す・・・!」


 可愛い幸子さんも見れて自然と顔が緩んでしまったりする。幸子さんも楽しんでいるみたいで嬉しい。


「雅美ちゃん、今日デートって言ってくれたじゃない?」

「はい。そうですね」

「なんか嬉しかったんだ。」

「というと?」

「だって雅美ちゃんは会社では私の先輩じゃない?それにみっちゃんの友達でさ、それってなかなか仲良く二人でなんて感じになれるのかな?って思ったりしてたんだ。10歳も違うしね。」

「幸子さんもそんなこと考えてくれてたんですね。うれしい」

「歳が離れてるから妹の友達という感じだったし、先輩だからプライベートで会社帰りとかじゃなく二人で会うなんてチャンスないじゃない?私は雅美ちゃんともっと仲良くなりたかったんだよ?」


 どうしよう。めちゃくちゃうれしい。さっきからバクバク止まらないし、どうしよう。


「雅美ちゃんちょっと顔真っ赤のぼせちゃったんじゃない?」

「だ、大丈夫」

「そう?」

「あの、幸子さん。もし、また私がデートしたいって言ったらしてくれますか?」

「え、そりゃ行くよ?」


 当然じゃないという幸子さんに私は最高潮になってしまって。それでやらかした。裸だと忘れてしまってたんだ。幸子さんの胸へダイブしたのは後から気づいた事である。

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